数少ない道頓堀の灰皿には吸い殻が溢れている
2008年に橋下氏の鶴の一声で府職員の「たばこ休憩」を禁止。さらには府庁舎敷地内を終日禁煙にして喫煙所をすべて撤去してしまった。すると、周辺の路上や大阪城公園付近の路上でたばこを吸う職員が続出。「結果的に近隣住民からのクレームに繋がってしまった」(大阪府総務部人事局)という。
しばらく路上喫煙の自粛を呼びかけたが、やはり苦情は収まらない。そして2015年、ついに松井知事が敷地外に2か所の喫煙スペースを設置した。自らも愛煙家を公言している松井氏だけに、肩身の狭いスモーカーの気持ちを忖度したのかもしれない。
実際に四方を壁に囲われた喫煙スペースに行ってみると、なぜか2か所とも灰皿が見当たらない。職員とおぼしきスモーカーたちは皆、携帯灰皿に吸い殻を入れて戻っていく光景が見られた。
大阪府の総務部庁舎室庁舎管理課の担当者は、「灰皿を置いてもその中に捨てない人が必ず出てくるし、違うゴミを捨てたりして管理が大変になる。あくまでも携帯灰皿を持参して路上喫煙のマナーを守ってもらいたいと考えた」と、その意図を説明する。
大阪府下では東京と同じように路上喫煙やポイ捨て禁止のエリアを条例で定めている自治体もあるが、数は多くない。そのため、屋外での喫煙は言ってみれば自由なのだが、街中からは時流に合わせるかのように、次々と灰皿が撤去されている現状がある。そこで起きているのが、一度は良くなったかに見えたモラルの低下だ。
タレントのカンニング竹山氏が7月、Twitterに大阪駅近辺の側溝にたばこの吸い殻が溢れている写真を投稿するとともに、〈よくないよ! こういうの! モラルが大事だと俺は思う〉とツイート。松井氏や大阪市が即座に反応して清掃するという出来事があった。
「いまは屋内の分煙が進んでいる一方で、屋外ルールのコンセンサスが得られていない状態。たばこを吸う人は外でもなんとなく人目を忍んで隠れて吸っているし、そのうえ堂々と喫煙できる場所も少ないので、どうしても裏路地に入ってポイ捨てする人も出てきてしまう」
と嘆くのは、大阪ミナミの歓楽街を貫く戎橋筋商店街振興組合の事務局。現在、大阪市では御堂筋および大阪市役所・中央公会堂周辺を条例で路上喫煙禁止地区に定め、違反者から過料1000円を徴収しているが、カンニング竹山氏の一件もあり、吉村洋文市長は〈国内外から多くの人が集まる観光スポットなど、市内の路上喫煙禁止エリアは拡大していくべき〉と述べている。そうなれば、真っ先にターゲットになるのは戎橋や道頓堀、心斎橋などインバウンド特需で人が溢れかえるスポットだろう。
だが、前出の戎橋筋商店街の関係者はこう反論する。
「インバウンド需要はもちろん、今後は万博誘致も控えてますます観光客が増える大阪で、安全・安心、そして街の美化対策はもっと進めていくべきだと思います。いまは食べ歩きのゴミや路地裏のたばこのポイ捨てなどがひどい状態ですからね。
でも、ミナミ一帯を面で規制したところで実効が伴わなければ、さらなるモラルハザードを招くだけ。御堂筋だって路上喫煙規制から3年たって徐々にポイ捨てはアカンという意識が浸透しています。最終的には一人ひとりのマナーの問題に尽きます」