音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の連載「落語の目利き」より、観客からお題を3つもらって即興で落語を作る「三題噺」に取り組んだ柳家喬太郎と、その創作力と応用力の高さについてお届けする。
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才人、柳家喬太郎。彼の創作力はケタ外れだ。それは、単に優れた新作落語をたくさん生み出している、というだけではない。何か課題をクリアすることを求められたときの応用力の高さは驚異的である。
その最たるものが、観客からお題を3つもらって即興で落語を作る「三題噺」。上野鈴本演芸場8月上席夜の部は企画興行「柳家喬太郎 三題噺地獄」で、10日間すべて前売り(指定席)で完売。連日立ち見が出た。
5時半開演、喬太郎は毎晩6時に観客からお題をもらって楽屋に戻り、寄席の番組が進行する間に作った落語をトリの高座(8時20分から)で演じる。今回は3つのお題のほか、仲入り前に登場する日替わりゲストの演目も盛り込んで噺を作る、という縛りがあった。
僕が観たのは4日目と5日目。4日のお題は「ギャル」「懐中時計」「ダムに沈んだ村」で、ゲスト三遊亭白鳥の演目は『アジアそば』。これらを盛り込んで喬太郎が作ったのは、19歳で結婚しようとする孫娘に祖母が自分の両親(孫娘にとっては曾祖父母)の人生を語って聞かせる『蕎麦と湖』。駆け落ちして懸命に生きた曾祖父母の物語をカットバックで挿入し、随所に笑いを盛り込みながら親子4代にわたる人情噺に仕立てた構成は、到底即興とは思えない。胸に沁みる逸品だ。
5日のお題は「金太郎アメ」「手乗り文鳥」「カクテルグラス」で。ゲスト春風亭一之輔が演じたのは『かぼちゃや』。これで喬太郎は、純情中年のドタバタ恋物語『大吉文鳥』を創作した。恋する独身中年男の勘違い暴走のバカバカしさで爆笑させつつ、最後は胸キュンのエンディングへと持っていく。これぞ喬太郎の真骨頂! これも持ちネタとして残りそうだ。