「魚のなかでもとりわけ鯉の脳には傷んだ神経を修復させるビタミンB12が豊富で、耳鳴りや難聴の治療に用いられる成分です。また血行を改善するビタミンEや、むくみを取る作用のあるカリウムも豊富に含まれています。耳鳴りに有効な3つの成分が入っているので、一定の効果があったのかもしれません」
もちろん当時は細かい成分の分析などはできない時代。にもかかわらず、有効な治療法を用いていた先人の知恵には頭が下がる。
同様に、《耳が疼痛する場合の治療法》(巻五第三章)では、《塩を蒸し、これを患部に当てて温める》(同)とされている。
「耳が痛いというのは中耳炎のことだと思われますが、炎症によって血管が膨張して鼓膜を圧迫することで痛みが出るのが中耳炎です。塩(塩化ナトリウム)には交感神経を刺激した血管の収縮作用があるので、応急処置としては理に適っていると思います」(前出・坂田院長)
痛みや違和感といった病気の症状だけでなく、現代人のエチケットも守備範囲だ。
《大豆を炒って焦がし、熱いまま酢に入れ、その汁を取ってこれを含むこと》(巻五第五十二章)
今にも香ばしさが漂ってきそうなこの方法は、口臭対策。口臭治療を専門とする中城歯科医院の中城基雄院長は感心の声をあげる。
「酢には殺菌、抗菌作用があり、口腔内にいるにおいのもととなる菌を退治します。口に含むだけでなく、大豆をそのまま食べるのも効果的だったでしょうね。炒ることで抽出されやすくなるイソフラボンには食べたものを正しく栄養に変える働きがあり、胃の負担を軽くするとともに、腸内腐敗臭に由来する口臭の予防に効果が期待できます」
※女性セブン2017年11月2日号