半蔵門線に向かうと、山手線に比べて一際狭いホームに歩行人の行列ができている。歩きスマホの女子高生が、前の人が足を止めたことに気づかず、頭を前の人の背中にぶつけた。同様に、すれ違いざまに肩と肩がぶつかる光景を何度も見た。
記者はYouTubeを見ながら歩く20代女性に、「歩きスマホ、危ないですよ」と声をかけたが、一瞥しただけで再び視線をスマホに戻し、無言で去って行った…。
通行人が「歩く凶器」になっていた。視覚障害者でパラリンピック・陸上競技の日本代表である高田千明さんがホームに集う人々に苦言を呈する。
「駅のホームには、危険箇所を示す点字の『警告ブロック』があり、視覚障害者は足の裏や白杖でこのブロックを確認しながら歩きます。ところがこのブロックの上に荷物を置いてしゃべったり、スマホをいじっている人がいます。まるで鳩が電線に止まっているように横一列に並んでいるので、『あなたたちは鳩ですか?』と聞きたくなります。何でわざわざブロックの上に並ぶのでしょうか」
点字ブロック上を占拠する“鳩”たちに出会ったら、高田さんは「ここを通るからどいてください」との意を込めて、風船ガムをパーンと鳴らしながら歩く。生死にかかわることなので、せざるを得ない。すると彼らは豆鉄砲を食らったようにハッと驚き、その場を離れていくのだという。
白杖をついた視覚障害者が歩きスマホの客とぶつかることも少なくない。
「白杖が目に入らなかったのかもしれませんが、通行人にぶつかった時、『危ないだろ』『どこ見てんだ』と怒鳴られるケースがあります。混雑時に蹴飛ばされた白杖が手から離れても、拾ってもらえないこともあります」(高田さん)
危険な歩きスマホに対して、各鉄道会社も対策は講じている。関西の鉄道事業者20社局は今年3月、「歩きスマホは、視界が極端に狭くなります」など、約1万3000枚の共同ポスターを駅舎構内や社内に掲示した。しかし、そうした啓発ポスターさえも、スマホに夢中の現代人は“見えていない”のだ。
※女性セブン2017年11月9日号