往年のブームは沈静化し、日本では業者の廃業が相次ぐ。業界草分けのオリエント工業すら出荷数は年数百体とみられ、売上(非公開)はEX社の約1911万元(約3億2500万円)を大きく下回る可能性が高い。
「職人の目で見れば、中国側にまだ技術改良の余地はある。しかし、進歩は目覚ましく価格競争力も強い。弊社も数年前からヘッド部分(顔)だけの製造に絞り、中国製のボディに乗せて商品化しているんです」
後に判明したが、LEVEL-D社が用いはじめた中国製ボディもEX社製品だった。提携先の取扱品だったのだ。他のものづくり分野と同じく、この業界も中国の台頭は凄まじい。
他方、EX社は元気である。中国では伝統的に男児が好まれ、一人っ子政策のもとで「産み分け」をした親も多かったために、国民の男女比は116:100(標準比は107:100程度)と極端に不均衡だ。結婚に数千万円以上の金銭負担が強いられる例も多く、伴侶がいない男性(剰男)は3000万人以上。潜在市場は大きい。
中国国内で競合が少なく、日本製の輸入ドールは高価なため、EX社は質と価格の双方で優位性がある。経営陣の全員が八〇後(1980年代生まれ)の若者なので、中国国内のオタク・コスプレ系文化にも目端が効く。
事実、造形のかわいさが受けて、若い女性の顧客も1割以上いるらしい。男性でも「実用」目的ではなく、写真撮影モデルとして買う人がかなり多いという。