第2点は、「ポスティング制度」そのものだ。過去、選手会が日米間の移籍に関して、異議を唱えたのは今回だけではない。
1998年12月15日に調印された同制度は、フリーエージェントの資格を持たない選手がメジャーに移籍するための唯一の制度であり、球団側の権利だ。初期の制度は入札額が無制限だったため、松坂大輔やダルビッシュ有の入札の際には、西武ライオンズや日本ハムファイターズには60億や40億円というビックマネーが球団の懐に入った。
これに対してメジャーの選手会は、「選手ではなく、一方的に日本の球団ばかりにお金が入るのはおかしい」、「日本人選手の獲得にお金がかかると、現役のメジャーリーガーの取り分が減る」と猛反発。その結果、入札額に上限が加わった一方で、ヤンキースの田中将大が手にした7年総額1億5500万ドル(約161億円)という選手側勝利の制度に変貌した。
このオフだけ時限的に同制度を踏襲する場合、「25歳ルール」が適用される大谷にとって、22億円の恩恵を受ける日本ハムとは比較にならない。選手会としては、2年待てばこのルールの縛りから解放され、史上最大の「7年総額2億ドルプレーヤー」となれる大谷の価値に見合わない不平等な契約になることを危惧しているのだ。
現在、選手会事務局長に君臨するのは、通算251本塁打を放ったスラッガーとして、初めて選手上がりでトップの座にまで上り詰めたトニー・クラーク氏だ。ヤンキースで松井秀喜氏と同僚だった頃に取材したが、野球の国際化に関して広い見識があり、リーダーシップを感じたことがあるナイスガイだった。事務局長になってからも、「1200人の選手の代表者であり、利益を守っていくのが仕事」と公の場で強調している。
歴史的に、選手会は自分たちの価値を下げるような不平等なルールには断固たる措置をとってきた。そして1995年のストライキ以降、労使関係は極めて良好な関係ではあるが、将来性のある選手の前に悪しき前例を作ることは、絶対に許されないスタンンスなのだろう。
イチローは27歳、田中は25歳での移籍だった。23歳という異例の若さで海を渡る決断をした大谷の前に、「ポスティング制度」と「25歳ルール」という2つの壁が、複雑に絡み合って、立ちはだかっている。