私は例年、トライアウトが行われている間、球場の喫煙所で選手を待つ。勝負を終え、紫煙をくゆらす選手がふと漏らす一言は、番記者の前で発する言葉以上に、正直なものになる。
今年、喫煙所でとりわけ大きなため息を漏らしたのが2002年のプロ入り以来、巨人、日本ハム、DeNAを渡り歩いて来た林昌範だ。トライアウト参加者で最年長(34歳)の彼は、3安打(1四球)を浴びた。
「野球を捨てきれない気持ちがあった。終わって、悔いはないですし、スッキリはしています。現役生活16年。声がかかるのを待ちますが、一区切りなので今後のことも考えていきたい」
報道陣の受付開始は午前9時。トライアウト関連の番組を制作するTV局のスタッフが、数十人分のプレスパスを抱えていた。それだけ選手と家族のドラマに視聴率が見込めるのだろう。
しかし、戦力外通告を受けた選手たちの現実は厳しい。昨年のトライアウトに参加した65人のうち、NPB(日本野球機構)の球団に選手として“再就職”できたのは3人だけだ。
プロ野球選手のセカンドキャリアを支援する日本リアライズ(プロフェッショナル・セカンドキャリア・サポート事業部)の川口寛人は、トライアウトを「選手に現役を諦めさせる場」と位置づける。彼自身も巨人の元選手で、2010年に育成ドラフト7位で入団し、わずか1年で戦力外となった。