「彼女はシャンパンが好きで、私の自宅に来たときも、新宿のホテルのお気に入りのバーに行ったときも、いつもシャンパンを飲んでいました。どんな人にでも平等に接するし、政治に関する意見もはっきり言う。その後も日本の女性の権利問題をずっと気にかけていた。私は大まじめに、ベアテさんこそノーベル平和賞にふさわしいと思ってきました。彼女は男女平等の概念を日本に産み落とした母親なのですから」
しかし今、自民党はこの24条を改正しようとしている。同党の憲法改正推進本部が発表した24条改正案は次の通り。
《家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない》
《婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない》
《家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない》
唐突に登場する「家族を大切にせよ」という新たな条文。加えて、現行の24条で「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し」と定める部分が、「両性の合意に基づいて」に修正。「のみ」が削られる形となった。財産権や相続権に関する条文にも、「家族」「扶養」「後見」といった文言が加筆されている。この改正案の意味するところを、女性の権利問題に詳しい弁護士の打越さく良さんが解説する。
「社会を家族単位で規定しようとする思想で、『個人』を骨抜きにする意向が透けて見えます。新たな条文は、とりわけ女性へ向けたものでしょう。個人を尊重し、女性が社会に出ていつまでも結婚しなければ、『家族』がなくなり、子供も生まれず、ひいては次代の労働力がいなくなる…。そんな懸念のもと、改憲派は家族主義にこだわっているように思えます。『女性は家の中で役割を果たしなさい』と。夫婦という横の繋がりよりも、祖父母、父母、子供という血族の流れを重視し、夫は働き、妻は良妻賢母として家に尽くし、子供を産んで育てるという構図を再び作りたいのでしょう。ベクトルが戦前に向いています」
文言としては「両性の本質的平等」という言葉が残っているが、これは実質的に“男女平等”を外そうとしているようなものである。室蘭工業大学准教授で憲法・家族法学者の清末愛砂さんが語る。
◆当時の日本人女性がどれほど過酷な社会で生きてきたか