自ら死に時を選ぶ──是非はともかく、それこそ理想の最期とする考え方がある。日本では認められていない安楽死を、それでも求める人たちが増えているのだ。世界各国の安楽死事情を取材し、その成果を『安楽死を遂げるまで』(小学館刊)にまとめたジャーナリストの宮下洋一氏が、日本の安楽死に関する現状を報告する。
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日本人にとって、安楽死を遂げるまでの過程は、想像以上に複雑といえる。最近、著名人が自らの死期を早めたいと声を上げ、スイスに渡る計画を立てていることが日本で話題になった。なぜスイスかというと、外国人が安楽死できるのは、その国以外にないからだ。
私は、2015年末から、2年間にわたって6か国を取材した。主にスイスでは、外国人の安楽死の瞬間を見届けてきた。そこでは、膵臓癌に苦しむ60代女性から、老いを恐れて死を決意した80代の老婦もいれば、まだ生きることが可能な難病を背負った50代の患者もいた。
死の前夜、スウェーデン人患者は「(痛みを)耐え抜くことによる報酬でもあるのかしら」と語り、彼女を幇助した医師は「患者も家族も納得できて良い別れになる」との信念を持っている。安楽死を行ない、それを施す医師たちの考えは、日本の閉鎖的な体制とは異なるのだった。
世界で初めて安楽死を認めたオランダのある医師は、「オランダ人は死に寛容な国民」と話していた。初期の認知症で、安楽死を選んだ同国男性の妻は、「夫らしい、美しい死に方だった」とまで言った。