現実には、ややこしいケースもある。ドラッグを使おうとする人間が「関係性」を意図的に作り出すパターンもあると、強く指摘しておきたい。以前、関東地方で女性100人以上を強姦し、その様子を撮影、動画や写真をアダルトサイトに売り払っていた男が逮捕された。この事件はまさに「デートレイプドラッグ」をつかった犯行そのものだと、警視庁担当記者が説明する。
「男は、宿泊形式の治験アルバイトなどと言って女性をホテルや旅館に誘い出し、酒を飲ませた上で睡眠薬を飲ませ、女性が知らない間に強姦したり撮影をしていました。中には被害に気がつかず、何度も“治験”に参加する女性もいたほど。被害者女性が、自分の動画がネット上に上がっていることに気がつき、男の犯行が発覚しました」(警視庁担当記者)
温泉入浴による血圧の変化を調べるモニター募集の広告で集められた女性たちは、医師や会社経営者と名乗っていた容疑者の男から、途中で目が覚めると睡眠時の血圧調査がうまくできないと説明を受け、言葉巧みに睡眠剤を飲まされるなどしていた。知らない間に飲ませるどころか、女性が「睡眠薬を飲むための理由」を、きちんと用意していたのである。
それによって、前述の”関係性”に似た感情を相手に刷り込ませていたという容疑者。100人以上の被害者がいたにも関わらず、ほとんどの女性が“被害”に気がついていなかった。この気づかないところ、気づきにくいところが「デートレイプドラッグ」の恐ろしさを如実に表しているとも思える。潜在的な被害者の数を想像すると、背筋が寒くなるのだ。
現在、このデートレイプドラッグは、ある意味で進化も遂げつつある。都内在住の会社員の男性・Cさんは、数年来の遊び友達から面白半分で紹介された「下半身が元気になるクスリ」を飲んだ直後に、気を失った。そして、友達はCさんが気絶している間に、性交に及んでいたというのだ。
「知人は合法ハーブ(危険ドラッグ)の販売サイトで買ったという“元気になるクスリ”だといって笑いながら見せてきました。ノリで飲んでみたのですが、まさかこんなことになるとは思わず……本当にショックです。これで私が女性なら訴えたいとも考えますが、相手は友人であり同性。なかなか言い出せません」
何年も前からの遊び仲間で、一緒に飲むこともしょっちゅう。悪ふざけが好きだということは知っていたが、本当に悪質なことをされたこともないし、そういった評判もなかった。以前、似たようなクスリを仲間で飲んで「何もないじゃないか!」と笑い飛ばしたことがあったため、今回も同じようなものだと思って飲んだところ、下半身が元気になるどころか意識が混濁する薬だったため、予想外の結末を迎えたのだった。
このように、最近の「デートレイプドラッグ」には「簡単気軽に買えるジョークグッズ」といった認識で使用される例が増えているとも言われている。かつて「危険ドラッグ」が、ハーブの一種だからと軽く扱われていたのに気づけば深刻な問題となった、というように、「デートレイプドラッグ」を使用するハードルも低くなってきている様子がうかがわれる。
2017年7月から、女性が被害者の場合に限定されていた強姦罪が廃止され、男性も含む性別不問の強制性交等罪が設けられた。睡眠・飲酒酩酊している人に対して性交等に及ぶことも準強制性交等罪になり、5年以上の有期懲役に処せられる。しかし現実には、証拠不十分で有罪に至らないことも多く、新法の制定を知らない人が多い現状では、被害者は泣き寝入りを強いられる他ない。薬物使用の容疑者に対しては、もっと厳しく罪と向き合わせる必要があるだろう。
じわじわと世の中に広がりつつある「デートレイプドラッグ」。被害に遭わないよう注意するのはもちろんだが、もし異変を感じたら、辛くても「検査を受ける」こと。そして、被害者を責めないこと。これ以上、卑怯者の好き勝手にさせてはいけない。