そんな藤本先生ですが、1996年9月23日に大長編『のび太のねじ巻き都市冒険記』の連載中にお亡くなりになりました。これでもう「ドラえもんが終わってしまう」と思ったのですが、藤本先生のご自宅の机から、第3回目の下絵ラフが全ページ残されていて。先生は本当に、意識がなくなる直前まで筆を握り、原稿を描こうとしていた。その事実に鳥肌が立ちました。本当にすごい方だと。漫画に全てを捧げた人なんだと。
その下絵や残された先生のアイディアノートをもとに、第3回目から描かせていただくことになったのですが、本当に難しかったです。ぼくは先生の原画を至近距離から観察して、ペンの入りや切り返し、力加減まで同じになるように努力したのですが、うまくいきませんでした。一番大変だったのが「目」です。黒目が1ミリずれるだけでドラえもんやのび太じゃなくなる、別人になってしまいますので。藤本先生やドラえもんファンの読者に、本当に申し訳なくて…。何度も何度も描き直しました。
藤本先生が亡くなってから、先生はよく夢に出てきます。ぼくが自分の原稿を描いていると、藤本先生が現れて突然原稿を渡されるんです。「すごい作品だ」と思っていると目が覚める、というような。『ドラえもん物語』の冒頭は夢のシーンから始まるのですが、あれは実話なんです。
命日はもちろん、新刊の報告などで、藤本先生の墓参りにはよく行きます。『ドラえもん物語』が完成したときは行けなかったのですが、その後すぐ命日がありましたので、ご報告に行きました。自分の家の墓より多く藤本先生のお墓に行かせていただいてますね。
【プロフィール】
むぎわらしんたろう/1968年7月12日生まれ。東京出身。漫画家。1988年、藤子プロ入社。代表作に『ドラベース ドラえもん超野球外伝』。現在は、『月刊コロコロコミック』にて『野球の星 メットマン』連載中。発売中の『コロコロアニキ冬号』で、コロコロゆかりの作家が下積み時代の思い出の1品を紹介する、ノンフィクショングルメ連載漫画『なみだめし』に登場。最新刊は『ドラえもん物語 ~藤子・F・不二雄先生の背中~』(小学館刊)