ただし、CMの内容をプレスリリースにしたり広告系の雑誌で紹介される時はコピーライターとしてリーダー的な存在の人物の名前を入れるのが慣例となっている。だからこそ、実際にそのコピーを考えたのが制作会社の若手だったり実績のあまりないフリーランスだったとしても、そのリーダー格の人が作った、ということにされる。過去にはこうした慣例を理不尽と感じた若手コピーライターがブログで告発した例もある。
それでは、広告代理店のコピーライターは、自分が考えたコピーを広告主の社員が考えたかのように言われることについてはどう思うのであろうか。
「そんなの、日常茶飯事ですよ。というか、それが黒子役の広告代理店の仕事だと思っています。依頼をされ、報酬を得て提供しているのだから、最終的にコピーは広告主のものであることは明白ですよね。むしろ、世の中使い捨てのコピーや広告が多い中、そうやって広告主側が“我々のもの”と思ってくれるコピーを生み出せたということに喜びを感じます。Hさんも元広告マンならそんなことは百も承知のはず。怒っているのには、何か別の事情があるんじゃないでしょうか……」(同前)
◆訴訟はお金のためではなく、名誉のためか
Hさんも、広告代理店を退職した後にもずっと自分の考案したコピーが使われ、世の中にも浸透していることに対して、きっと誇らしかっただろう。ところが、のちに雑誌の記事にコピーの発案者が不明だと記載されているのを目にし、さらには事実とは異なる人物や会社の制作説が飛び交うようになったため、自らカルビーに名乗り出たとのことである。
そこでカルビーに対し当時の制作関係者の証言を携えて名乗り出たところ、社長との面談が実現。感謝の言葉をかけられ、社内報用の社長とのツーショット撮影までされたのだという。そうなると、Hさんもその気になるのは仕方がない。社内報の完成をさぞや楽しみにしていたことだろう。それなのに、社内報の話は知らぬ間に反故になっていたどころか、その後のテレビ番組や新聞にてカルビーが「このコピーはうちの社員が考えました」と公言したというのだ。