そのような環境で審査基準となる「真正性」と「世界的な重要性」を見極められるのか。公正性を保てるのか。疑問が残る。
さらに次の申請には天安門事件や旧日本軍の731部隊が申請されるという情報もある。今後も日本が加害者とされるテーマの申請が続くのは間違いなかろう。反論の機会が与えられたとしても、食い止めるのは厳しい。
昨年10月、アメリカは「根本的な改革の必要性」があるという理由でユネスコ脱退を表明した。拠出金1位のアメリカに続き、2位の日本も脱退または凍結すれば、ユネスコが苦境に陥るのは目に見えている。まだ手は残っている。
筆者は、外務大臣、あるいは安倍総理が直接ユネスコに制度改正を働きかけるように提案したい。では、何をどう変えるのか。
政治的な緊張を招きやすい19世紀以降のテーマは申請対象から外すべきだと考えている。実現の可能性は決して低くない。帝国主義の時代だった19世紀、二つの世界戦争が起きた20世紀では、先進諸国はいずれも「スネに傷を持つ」身だからだ。
イギリスはアヘン戦争。フランスはマリー・アントワネットたちが処刑されたギロチンの歴史。アメリカは先住民(インディアン)の虐殺だけでなく、ハワイ併合やフィリピン占領も行っている。オーストラリアもアボリジニ狩りという歴史を持つ。中国も20世紀に入ってからの文化大革命や天安門事件を蒸し返されたくはないだろう。「我々の役割は記録の保存と公開で歴史の解釈ではない」とするユネスコも国家間の歴史問題に巻き込まれるのは避けたいはずだ。
安倍総理や河野外相がみずからユネスコの新事務局長(フランス女性で前文化相)へ働きかけるのが望ましい。
【PROFILE】1932年生まれ。現代史家として慰安婦強制連行説を調査により覆す。『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)、『慰安婦問題の決算』(PHP研究所刊)など著書多数。
●取材・構成/山川徹(フリーライター)
※SAPIO2018年1・2月号