S-Vision登載ブルーレイプレーヤー。試作機は船井電機に製造委託
S-Visionを使えばHDのBDディスクの映像は、4KHDR対応よりも優れたものになる。つまり、コンテンツが4KでもHDRでもある必要はないというわけだ。
その理由を近藤氏に訊いたが、技術的な説明は文系の私にはほとんど理解できなかった。そこで、近藤氏とI3研究所が目指す映像について話してもらった。
「私たちは、自然が先生だと思っています。私たちが目にする自然の山や海の姿は、太陽の光が反射してそれが目に入ってきたものです。たとえば、木の葉ひとつとっても、たくさんの太陽の光りを浴び、そのいろんな反射によって形や色、明るさを私たちは認識します。それによって、私たちはその場にいるという現実を感じるわけです」
さらに、こう言葉を継ぐ。
「S-Visionは、私たちが体験している現実感を再現しようとするものです。広々とした海で味わった解放感、木々の間を散策した時に感じた癒やしなど言葉で表せない『~感』を、映像から感じさせるものです」
テレビの歴史は高画質(高精細)と大画面の実現を目指したものだ。高画質は4Kで達成され、大画面は薄型テレビで実現した以上は、次のステップへ、新しい映像へ進むべきだというのが近藤氏とI3研究所の考えなのであろう。
その意味では、これこそ「差異化技術」と言える。かつて世界のテレビ市場を牽引した日本の家電メーカーが再びその地位を取り戻すには、誰が見ても分かる「差異化技術」が必要である。S-Visionを搭載したBDプレーヤーの量産化はまだ決まっていない。採用する国産メーカーが現れることを期待して止まない。
●たていし・やすのり/ノンフィクション作家。1950年、福岡県生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。週刊誌記者等を経て、1988年に独立。1993年に『覇者の誤算―日米コンピュータ戦争の40年』で講談社ノンフィクション賞受賞。2000年に『魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ』でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。『さよなら!僕らのソニー』『パナソニック・ショック』など家電メーカーに関する著書多数。