プロ野球では、出場選手登録が一定以上に達した選手に対してFAの権利が与えられる。つまりFA権は、経験と実績のあるベテラン選手に与えられる権利なのである。
ただ大相撲の場合は、逆に入門後の期間が短い若手力士に権利を与えるべきである。何もわからないまま誘われて部屋に入ったが、ほかの部屋のほうがよかったということは当然ありうる。また、いざとなったら暴力や極端な不条理から逃れる道を残しておけば、それを抑止する効果がある。
一方、部屋の親方からすると入門させてみたものの自分の部屋には合わず、ほかの部屋に移ったほうが本人にとってもよいと判断する場合もあるはずだ。そのような場合には、本人の同意を得たうえで他の部屋へトレードできる制度を設けておけばよい。
力士が部屋を移れるようにすれば、部屋の親方が力士を「人質」にとって協会に盾突くようなことはなくなるに違いない。また各部屋には若手力士を引きつけ、育てようという競争意識も生まれるだろう。さらに組織の風通しがよくなれば、八百長も起こりにくくなるはずだ。
大相撲界はこれまで伝統の名のもとに必要な改革まで怠ってきた。しかし、伝統にしがみつくだけでは組織として生き残れない。また相撲は神事であると同時にスポーツでもある。しかも相撲協会が公益財団法人に移行した以上、組織としての透明性とガバナンスが求められるし、当然ながら力士の人権を侵害することがあってはならない。
大相撲の世界と同様に保守的で閉鎖的だといわれる役所でも近年、FA制度を取り入れるところが増えている。実際に制度を使って異動する人は必ずしも多くないが、それでも組織の風通しがよくなったと評判はよい。
世間の目が大相撲界に注がれているいまこそ改革のチャンスであり、FA制度はその切り札になるのではなかろうか。