芸能

大杉漣と北野武、その幸せな「2、3秒」の出会いについて

舞台俳優としての迫力、美しさを持っていた

 人生の「転機」は突然訪れる。舞台出身の俳優・大杉漣さんにとってそれはほんの僅かな時間だったが、振り返ってみれば、そうなることはあらかじめ定められていたかのようにも思える。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が述懐する。

 * * *
 大杉漣さんが66歳という若さで急逝し、メディアはこのニュースで一色となりました。中でも、繰り返し語られたのが大杉さんの「転機」について。大学を中退し、アングラ劇団・転形劇場の役者として奮闘していた若き日の大杉さん。その劇団も解散してしまい、初めて映画のオーディションを受け、運命が大転換したという伝説のエピソードです。

 その映画は北野武監督の『ソナチネ』(1993年公開)。やくざ役のオーディションに初参加した大杉さん。

「約1時間遅刻し、既に片付けが始まっていた会場で、スタッフと雑談する北野監督の元に歩み寄ったが、北野監督は2、3秒見ただけで「もう帰っていいですよ」との対応」(「スポニチアネックス」2018年2月22日)をしたそうです。

 大杉さんはあまりの時間の短さに、「受かるわけない」と思っていたとか。しかし数日後、「大杉さんでいきますから」と言われびっくりした、とインタビューで繰り返し語っていました。ご本人も驚いた、選ばれ方。その後みんなが知る大人気俳優となったのですから、たしかに「大転機」と言っていいのでしょう。

 でもなぜ、たった一瞬で北野監督は大杉さんを選んだのか?

 言葉によるやりとりも、挨拶さえも交わしていなかったと大杉さんは振り返っていましたが、ではいったい何が、「判断材料」となったのでしょうか?

「2、3秒」という点に、深い意味があると私は思います。たった2、3秒、見ただけで判断できるものとは?

 それは、人のたたずまい。大杉さんのたたずまいは、凜としてムダなものが削がれ、まるでギリシャ彫刻のよう。みだりに感情を出さず安易に体も動かさない。横顔には緊張感が漂っている。

 自慢ではありませんが、30年ほど前、私は直接、そんな大杉さんをこの目で確かめました。「舞台上で晒した身体のすごさ」を、生で目撃する幸運に恵まれたのです。転形劇場の公演に繰り返し足を運んでいた私は、他の役者よりもひときわ大柄で鋭い眼光、腕や脇腹にくっきりと筋肉の筋が刻まれた役者・大杉漣に引き寄せられました。

 舞台という生の空間でしか伝えることができない、鋭い刃を上から振り下ろすような迫力を大杉さんの身体は確かに持っていた。客席の観客はその力を直に感じ取って震えました。私もその一人でした。

関連記事

トピックス

行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
不倫騒動や事務所からの独立で世間の話題となった広末涼子(時事通信フォト)
《「子供たちのために…」に批判の声》広末涼子、復帰するも立ちはだかる「壁」 ”完全復活”のために今からでも遅くない「記者会見」を開く必要性
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
SNSで「卒業」と離婚報告した、「第13回ベストマザー賞2021」政治部門を受賞した国際政治学者の三浦瑠麗さん(時事通信フォト)
三浦瑠麗氏、離婚発表なのに「卒業」「友人に」を強調し「三浦姓」を選択したとわざわざ知らせた狙い
NEWSポストセブン
昨年ドラフト1位で広島に入団した常広羽也斗(時事通信)
《痛恨の青学卒業失敗》広島ドラ1・常広羽也斗「あと1単位で留年」今後シーズンは“野球専念”も単位修得は「秋以降に」
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン
元工藤會幹部の伊藤明雄・受刑者の手記
【元工藤會幹部の獄中手記】「センター試験で9割」「東京外語大入学」の秀才はなぜ凶悪組織の“広報”になったのか
週刊ポスト
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン