◆黒船・ナイキvs伝統のアシックス
日本の長距離界ではこれまで、軽量で反発力の強い薄いソールの靴が主流だった。箱根駅伝で4連覇を達成した青学大もアディダスと専属契約(昨年3月まで)していた「最強の靴職人」こと三村仁司氏監修の薄底シューズで揃えていた。三村氏のシューズは高橋尚子、野口みずきが五輪金メダルを獲得した際に使用したものとして知られている。走法も足裏中央で接地する「ミッドフット着地」が理想とされてきた。
ところが“厚底”のVF4%の登場で、新たな“必勝走法”が生まれつつある。ただし、前出・渡辺氏は「VF4%を履けば誰でも早く走れるほど甘くはない」とクギを刺す。
「フォアフット走法で42kmを走り切る身体能力を持つのは設楽君や大迫君のほか、ほんの一握りの選手だけ。導入するには、地面からの衝撃を受け止めるために臀部や腿の後ろの筋力強化など、徹底的に肉体改造に取り組む必要もある」
実際に今回の東京マラソンでサブ10(2時間10分切り)を成し遂げた日本人ランナー9人のうち、VF4%を履いていたのは設楽と山本憲二(全体9位・マツダ)の2人のみ。いずれもナイキとユニフォーム契約を結ぶ東洋大のOBだ。
一方、38km地点で設楽に抜かれるまで日本人首位を守り通した井上大仁(5位・MHPS)、昨年の青学大エースの一色恭志(13位・GMOアスリーツ)ら3人がアシックスの薄底シューズ。同社も、「選手ごとに適した靴を選んでいただいているが、創業以来、安全性とパフォーマンスの二軸はぶれません」(広報チーム)と“厚底には負けない”という自信をのぞかせる。
また日本人3位の木滑良(7位・MHPS)、佐藤悠基(10位・日清食品グループ)、村澤明伸(14位・同)の3人はミズノだった。