「本当はテレビには出たくないってずっと言っていたんです。断りにいったつもりが、いつのまにか衣装合わせをしていた──みたいな感じで出たのが『ハゲタカ』でした。大友さんには凄く説得されましたよ。『これってセリフが長いから、たぶん俺はダメだよ』って言っていたら、『大丈夫、大丈夫』って励まされて。結果としてそれが評価されたので、その流れに『龍馬伝』もありました。
あの時代のことは自分なりに勉強していましたが、吉田東洋のことは知りませんでした。それだけに、かなり驚きました。演技以前の勉強といいますか、ああいう人間の心境を支えているものは何なのか、知りたかった。結局、七割くらいは世の中を諦めている人なんだと思いました。それでも残りの三割に希望があって、若者たちに未来を託そうとしていたんじゃないかと。自分という壁を見て壊そうと思う衝動、そのモチベーションを抱ける若者を見抜ける力を持っていたように思えます。
それでも、彼はその若者たちに殺されてしまった。そういうことは歴史の中にごまんとあります。人間って、はっきり言って野蛮です。同じ種の命は奪わないという、他の動物は絶対にしないことをやっている。ルールをいまだに作れない。その流れの中に、僕はほとんどのドラマを見ようとしています」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小社刊)が発売中!
◆撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2018年3月16日号