側面Aspect、段階Stage、そして「月などの相」として月の満ち欠けの図も掲載されている。百科事典などではこれを「月の位相」とする。
林教授の御著作『現代憲法学の位相』には、憲法学の側面も、憲法学の段階も、全く論じられていない。憲法学の満ち欠けも、当然ながら全く論じられていない。
なんでこんなおかしな言葉を得意気に使うのだろう。現代憲法学の理解がますますムツカシクなるばかりだ。御著作が英訳されるとしたら、どう訳すのか。
意味不明の「位相」の跋扈は学界だけにとどまらない。
二十年ほど前、在野の研究者による日本近世の庶民誌が話題になった。なかなかの労作であり、私も書評のたぐいで何度か紹介した。しかし、その第九章が「女の位相」と、題されている。女の側面? 女の段階? 女の満ち欠け? 著者は近世における女の「位置」と言いたいらしい。それなら平易に「女の位置」とすればいいではないか。私は著者に指摘の手紙を出した。返事には、確かに御指摘の通りではあるが、意味は通じるからこれでいい、とあった。近世庶民の質朴な豊かさを描いた著者に相応しくないと思った。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。
※週刊ポスト2018年4月13日号