国内

法学者も間違えている 意味不明な「位相」の使われ方

『ライトハウス英和辞典』のphaseの項目

 ある言葉が流行すると、その意味がだんだんと大きく曖昧になってゆくことがある。一般的にはそうかもしれないが、法律や研究の世界で、そういったゆるさは御法度のはずだった。「位相」という言葉が意味不明な使われ方を広範囲でされている現状について、評論家の呉智英氏が指摘する。

 * * *
 前回憲法を論じた際、法は体系的かつメカニカルに構築されていると書いた。この点で法律学は数学や物理学に近い。言葉の定義を明確にし用法を厳密にするところも同じだ。数学で「ピタゴラスの定理」とは言うが「ピタゴラスの原理」とは言わない。物理学で「速さ」と「速度」は明確に区別される。法律学においても、似た言葉を区別する。「みなす」と「推定する」は別の意味である。「条文を削除する」と「条文を削る」も意味が違う。

 そうであれば、法学者が法律を論じる場合、法律用語以外でもキーワードとなる言葉、とりわけ外国語を翻訳した言葉は正確に使わなければなるまい。

 二年前に岩波書店から『現代憲法学の位相』という本が出た。著者は林知更。東大法学部卒の東大教授である。私は、憲法学の位相を論じた本とは画期的だなと思って手に取った。しかし、目次を見ても位相らしき話は出てこない。序章を読むと、こんなことが書いてある。

「本書の標題『現代憲法学の位相』は、憲法学という学問が現代においていかなる位置と様相を有しているかを問うという本書の意図を表現している」

 林教授は「位相」を「位置と様相」の縮約表現だと思っているらしい。確かに「東大」は「東京大学」を縮約したものだが、「位相」は縮約表現ではない。Phaseの訳語である。Topologyを「位相幾何学」と訳すが、憲法学と位相幾何学とはもっと無関係だ。

 Phaseを手元にある『ライトハウス英和辞典』(第二版)で引いてみよう。学生向けの辞書であるから、大学には数冊はころがっている。語義説明には英語の別表現も付けて、次のようになっている。

関連キーワード

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン