今では携帯でインターネットを利用できるのは常識だが、それを世界で最初に始めたのがNTTドコモのiモードだった。レストランや映画の予約をしたり、天気予報や乗換案内を調べたりといったことが、いつでもどこでも、個人の“手のひら”でできるようになったのだ。
その頃、パソコンの普及も充分ではなかった時代、外出先で地図や天気などの情報が受け取れるのは画期的だった。
「iモードの登場で社会現象にまでなったのが、メールと絵文字です。それまでの携帯メールは文字数に制限がありましたが、iモードのメールは文字数が多く、使い勝手がよかったんです。絵文字もバリエーションが豊富で、文章や表現の幅が格段に増えたことで、若者を中心に広く受け入れられました」(携帯電話ライターの佐野正弘さん)
40代主婦・A子さんが振り返る。
「当時おつきあいしていた彼と、絵文字の顔の表情などニュアンスだけで会話するのが、ふたりだけにしかわからない空気があって楽しかった。今でいうLINEのスタンプのような感覚でしょうか」
以降、携帯は多機能化が加速し、単なる電話機ではなく人々のコミュニケーションに欠かせないツールとなっていく。ネットやメールの利用者が増えてデータ通信の高速化ニーズも高まり、2001年には通信規格が「3G」になったこともこの流れを後押しした。ITジャーナリストの石川温さんが語る。
「3Gの開始で電話やメールだけでなく、ネットを介して写真や動画、音楽まで楽しめるようになりました。『写メール』が大ブームとなり、各社がカメラ機能を競ったのもこの頃です」
携帯で買い物ができる「おサイフケータイ」や、テレビ番組を端末上で見られる「ワンセグ放送」も登場して、ますます携帯は身近になり、1999年に47.7%だった携帯普及率は、2005年には73.3%にまで上昇した。
「普及するにつれ、私を含め、周囲でも固定電話を使う機会が減りました。電話の横に必ず置いてあった紙の電話帳も、携帯の中にすべて記録されているし、使う必要がないんです。ひとり暮らししている娘も、もう随分昔から固定電話を家に置いていません。カメラも同様です。昔は旅行の際は必ずインスタントカメラなどを持参していましたが、携帯で写真が撮れるようになってからはその必要もなくなりました」(A子さん)
一方で、佐野さんは普及の弊害も指摘する。
「中高生にまで携帯が普及し、出会い系サイトの利用やネットの掲示板を介したいじめなど、問題も増えました。コミュニケーションが密になりすぎるあまり、人間関係に悩む人や、四六時中気が休まらないといった声が聞かれるようになったのもこの頃です」
更なる携帯新時代が訪れたのは、2007年のスマホの登場だ。アップルのiPhoneが米国で発表され、2008年からは日本でも販売を開始。日本独自の携帯は「ガラケー」と呼ばれて追いやられ、スマホが主流になっていった。