それは“あの夜”の翌々日の昼間のことだった。4月6日、東京・六本木にあるテレビ朝日本社。隣接する毛利庭園の桜は早めの満開を迎え、すでに見頃を過ぎていた。
社屋の一室では、2人の女性が向き合っていたという。1人は、その翌週に発売された『週刊新潮』で福田淳一財務事務次官の“あの夜”のセクハラ音源を告発した30代の女性記者Aさん。もう1人は、Aさんの上司にあたる50代の女性管理職Bさんだった。Aさんは、こう訴えた。
「テレビ朝日の放送で、この録音テープを流すことはできないでしょうか?」
気骨があって信頼できる上司のBさんなら、私が置かれた状況を理解してくれるはず。そう信じて思いの丈をぶつけたAさんに、逡巡しながらBさんはゆっくりと時間をかけて語りかけた──。
「日本ではセクハラが横行」。米国務省が4月20日に発表した2017年版の「人権報告書」は、セクハラが横行する国として日本を名指しし、働く女性の3割が職場でセクハラを受けていると指摘した。
一方、海の向こうでは、セクハラ疑惑を報じて「♯MeToo」運動を起こしたとして、ニューヨーク・タイムズ紙とニューヨーカー誌がピュリツァー賞を受賞した。日本文学研究者のロバート・キャンベル氏はこの受賞について、「女優たちがひとりひとり実名を名乗れたのは、自分たちが不利を被らないという自信と、社会が彼女たちを支えるという暗黙の了解があったからだ」と指摘した。
残念ながら、日本がそんな社会になるまでの道のりはあまりに長い。私たちは「セクハラを告発した女性が悪い」と堂々と発言することが許される社会に暮らしている。
『週刊新潮』(4月19日号)が報じた福田次官のセクハラ問題。福田次官が財務省担当の女性記者を自宅近くのバーに呼び出し、「おっぱい触っていい?」「手しばっていい?」などのセクハラ発言を繰り返したとの内容だった。
4月18日に福田次官が辞任を表明するとテレビ朝日は同日深夜0時から会見を開き、自社の女性社員が1年半ほど前から福田次官によるセクハラ被害を受けていたと公表し、財務省への抗議を表明した。この女性社員が、冒頭に登場したAさんだ。
「Aさんはテレビ朝日入社後、他の部門の報道に携わり、2年ほど前に経済部に異動した女性です。経済部記者としての経験は浅かったですが仕事熱心で正義感が強く、粘り強く取材活動をしていました」(Aさんと近しい関係者)
◆「浮気しようね」が取材活動という妄言
テレビ朝日が出したコメントには、こんな一文がある。
《当社社員が取材活動で得た情報を第三者に渡したことは報道機関として不適切な行為であり、当社として遺憾に思っています》
報道局長は会見で、録音テープを『週刊新潮』に渡したことについてAさんのコメントを求められると、《「不適切な行為だった」と反省している》と返答した。
下村博文元文科相は22日の講演でこう発言した。