芸能

フジ木10『モンテ・クリスト伯』、その目からウロコの手法

「映画的」なドラマ(番組公式HPより)

 今クールのドラマのなかでも、スケールの大きさならこの作品が出色だ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』(フジ系木曜午後10時)の第1話、2話を見て呆然。これまで目にしてきた多くの連続ドラマと何かが違う。どこかがはっきり違う。そう感じて、仕方がない。いったい何が、どう違うのか?

 一言で「映画的」と言えばいいのでしょうか。物語の世界の中へ連れ去ってくれる感。テレビの前の日常とは異質の世界へ「もっていかれる感」がすごい。

 物語の主人公は漁師・柴門暖(ディーン・フジオカ)。テロリストと関係があるという言われ無き罪によって結婚式の日に逮捕され、絶海の牢獄に幽閉されてしまう。それからなんと15年の間、拷問を受け過酷な独房生活に耐えながら脱出の機会をうかがってきた。そしてある日とうとう脱出に成功し、柴門は復讐の鬼となって行動を開始する。

 復讐の相手は、柴門に嫉妬し陥れた後輩・南条(大倉忠義)、柴門を罠にかけた主導役で先輩漁師の神楽(新井浩文)、自分の父を守るために濡れ衣を着せたエリート警察官僚の入間(高橋克典)。

 力量のある役者たちがディーン・フジオカの周りにきっちりと配置されていて、緊張感が半端ない。そして、監獄の過酷な環境に置かれ、のたうち回るディーン・フジオカは、その身体性と集中力を見せつける。捨て身の役者の迫力が滲み出ています。

 牢獄からの脱出シーンは、青のグラデーションの美しさに目を奪われました。ゆっくりと水の中を沈んでいく重たい麻袋。立ちのぼっていく銀の泡。粒立ちがまるで真珠のように輝いていて美しい。うっとり見とれてしまう。そんな「見せる画像」が、アートのように丁寧に随所に作りこまれているのも魅力です。

 海底へ沈んでいく袋の中には、「死体」に成り代わった主人公・柴門が潜んでいる。

 拷問を受け傷だらけの身体で。視聴者はその過酷を存分に見せられつつも、一瞬、うっとりしてしまうような青の風景に見とれる。汚辱にまみれた牢獄と天国のように輝く海。そうした異次元の対比、組み合わせが効いています。ロケを多用した、まるで匂いたつような映像は、お話・筋立てを進めるためだけの道具に留まりません。ワンシーンワンシーンそのものが、額縁の中の絵のように美しいのです。

 映画の楽しみとは、2時間程と短かい時間でも暗闇の中で意識を集中させて見ることで異空間にどっぷり浸ることができる点にある。見終わった時、まるでどこか遠くの国へ旅したような心地になる。まったく違う場所で別の人物になって体験をしたような、不思議な錯覚的カタルシスがある。そう、このドラマにもそうした意味での映画的カタルシスがあるのです。

関連記事

トピックス

近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
「参政党パワー」の正体とは(神谷宗幣・代表)
叩かれるほどに支持が伸びる「参政党パワー」 スピリチュアリズム勃興の中で「自分たちは虐げられていると不安を感じる人たちの受け皿に」との指摘
週刊ポスト
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン