2つ目の魅力として、物語の構造が「立体的」である点が挙げられるでしょう。
たとえば、一般的なドラマが1階建てのフラットな家だとすると、このドラマは3階建て、4階建ての複雑な立体構造をしています。主人公・柴門の「今」が1階のフロアで描かれれば、2階の部屋では柴門の過去が、3階ではまったく別天地の東京のIT系投資会社がテロリストに資金を供給している状況が、そして4階では異国の大統領がクーデターで失墜し牢獄に幽閉されている事情……といった具合に、各階でそれぞれの物語があり、時に絡み合い交錯していく。
1階から4階、3階から2階へと自在に行き来しながら、ドラマは立体的に展開していく。
第1話、第2話のプロローグはそうした立体構成で走り出しました。そしていよいよ第3話(5月3日)から、牢獄を脱出した柴門が、変身して「モンテ・クリスト真海」となり、復讐劇を開始する。
ドラマのタイトルからもわかるように、原作は19世紀のフランス小説『モンテ・クリスト伯』。日本では『巌窟王』で知られる、アレクサンドル・デュマ・ペールの壮大な物語が下敷きになっています。
幽閉-脱獄-変身-復讐という屋台骨はそのまま。骨格を維持しつつも上手に翻案し現代の日本の片田舎を舞台に、漁港、絶海の牢獄、テロリスト、クーデター、IT投資企業、公安といった社会的素材を味付けに使って大胆に現代ドラマ化しています。その手法は目からウロコ。海外の古典的大作をこのように現代ドラマ化できる、という画期的なお手本となりうる。
試されるのは、むしろ視聴者の方でしょう。一瞬赤毛ものに思えるタイトルに、引いてスルーしてしまった人も多いかもしれません。ちょっとした違和感に足を取られ食わず嫌いぜず、壮大な冒険的フィクションに心地よく身を委ねて、異世界を楽しむことができるか。
こんな大胆な翻案の妙を、楽しまなければもったいない。原作小説上の人物をドラマではこんな風にスライドさせたのね、という発見の楽しさもたくさんある。そう、日本がこれまで家電などの技術開発や文化において「お家芸」としてきた、輸入した土台を上手に「引用/応用」し翻案していく技法を、ドラマの中で味わうことができます。
作品が緻密に構築されているだけに、できれば第1話のプロローグから積み重ねて見てほしい、挑戦的な秀作です。