◆未来の予定を立てることは生きるエネルギーに

「めざせ、海外50か国」がひろの合言葉で、「次は“天国にいちばん近い島”であるニューカレドニアでダイビングをしたい」と言っていました。直近ではアイスランドでオーロラを見たり、氷河に乗ったりしていましたね。ぼくもメキシコで一緒にダイビングを楽しみました。

 彼女は日常のなかで小さな目標を立て、生活に張り合いや生きる意味を持っていました。いつ人生が終わるかわからないなかで、未来の予定を立てることは生きるエネルギーになります。だからぼくも彼女に旅行プランを作るようお願いしていました。

 だって、ただの細胞に過ぎないがんに自分の行動を制限されるのは嫌じゃないですか。もちろんリスクを認識しながら、できる範囲でやれることを楽しもうというのがぼくらの考え方でした。

 また闘病中はどうしても感情的になりやすいので、ぼくは彼女の感情を一定に保つことを意識しました。がんマーカーが下がっても派手に喜ぶでもなく、「そうか」と言って、逆に上がっても「ああ、そうなんや」という感じでした。

 傍からは冷血に見えたかもしれませんが、ぼくや家族が悲しい感情を表に出すと、ひろはぼくらに心配かけないように我慢したり、頑張ったりします。だからぼくが泣いたのは、結婚式で彼女のドレス姿を見た時の1回限りです。

 感情を出さない代わりに、新しい治療法の情報などをしっかりと調べて彼女に伝えました。

「一緒にがんと闘っているんだよ」というメッセージを送って、寂しい思いをさせないよう心がけていたんです。がんとわかってから、腫れ物に触るような対応をする人が多かったので、ひろは普通に接してくれるぼくの態度が嬉しかったと言っていました。

 ぼく自身、普段の何気ない日常生活で一緒においしいものを食べたり、ソファで一緒に寝転がって過ごしたりするのがいちばん楽しかった。何気ない日常生活がいちばんの思い出です。

 結婚してつらかったことは1つもありません。ぼくたちは、時間が経てば経つほど夫婦の絆が深まりました。

※女性セブン2018年5月10・17日号

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