国内

工場やコンビニ「外国人がいないとやっていけない」のが現実

日本のアパレル産業を支えているのは……

 技能実習を終えた外国人がさらに5年間働ける、新たな在留資格の創設に政府が着手する。日本は外国人が在留資格を得るのが難しい国のひとつだで、労働力確保のためには緩和すべきだといわれながら、議論も制度改革もすすまない。実際には移民の労働力に頼りきりな日本の現実について、ライターの森鷹久氏がレポートする。

 * * *
 九州某県の国道沿いに佇む、周囲は田畑に囲まれたかつて飲食店だった建物。午後10時ころ、十数人のアジア系の女性が建物から出てくると、そのまま列をつくって数百メートル離れた場所にある寂れたアパートへ向かう。一部屋に三人ずつほどだろうか、アパートの全四部屋にそれぞれ分かれて入っていった。こんなところになぜ多くの外国人が……、と違和感を覚える光景だが、近隣住民にとっては見慣れた日常だ。

「ああ、Aさんの縫製工場のこと? 外国人の若いお嬢ちゃんが研修に来とらすんよ。もう10年以上経つねえ。以前はみんな中国人やったけど、最近はベトナム人が多かごたるね」(近隣住民)

 主に婦人向け衣料を仕立てているA氏の工場。世界的に有名な高級ブランドのアイテムも取り扱っていて、「こんな田舎であの有名ブランドの服が作られているとなんて、と驚かれる」と話すA氏だが、アパレル業界に吹き荒れる安い「ファストファッションブーム」や、超大手衣料品店との競合に疲弊し、財務状況はとても良いといえる状態ではない。

「十数年前から“外国人技能実習制度”を利用し、中国やベトナム、タイなどから若い女性の研修生を迎え入れている。研修生にはうちの高い技術を覚えてもらい、国に帰って産業発展に貢献してもらう……というわけですが……」

 以前は日本人のスタッフと研修生の比率は5:1程度だったが、現在では逆転し1:5。その日本人スタッフも、全員がA氏の親族で、もはや研修生なしでは会社が回らないといった状況。A氏が苦々しい顔で続ける。

「研修生なんて呼び方だけで、はっきり言えば安い労働力として来てもらっている。うちはフルタイムで働いてもらっても月に10万円も出せない。そんなんじゃ日本人は誰も働いてくれませんから、研修生に頼っている。研修生には国からの補助金も出るし、それで差額を埋めている、といった感じでしょうか」

 財務状況の良くないA氏の工場にとって、安い賃金で、そしてまじめに働く外国人研修生は、ありがたい存在どころか、もはや「外国人研修生」の存在が前提でないと、運営すらできなくなっている。そんな外国人研修生について「まるで奴隷だ」という指摘の声も上がっており、業務内容のきつさに脱走したり、犯罪に走る外国人を作り出しているという現実もある。

「高い金は払えませんから、週に一度は自宅に招いてみんなに食事をふるまったり、一か月に一回は、都会のほうに買い物に連れて行ってあげたり、遊んだり……。彼女たちも工場の経営が厳しいことを何となくわかっていて、無報酬の残業や休日出勤だって厭わずにやってくれる。ダメなのはわかってます。でも、もう無理なんです……そうしないと」

 四か月前、A氏の工場に突然現れたのは「労働基準監督署」の職員数名だった。タイムカードなど、スタッフの勤怠チェックから会社の財務状況、スタッフ寮であるアパートの検査に、スタッフ一人一人への聞き取り調査が行われた。A氏は真っ青になった。

「最近は外国人研修生もいろんな知識を持っていて、誰かが労基に連絡したのでしょう……。(労基に)入られるとアウトな状況でしたから、これで何もかも終わると思いました……」

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
焼酎とウイスキーはロックかストレートのみで飲むスタイル
《松本の不動産王として悠々自適》「銃弾5発を浴びて生還」テコンドー協会“最強のボス”金原昇氏が語る壮絶半生と知られざる教育者の素顔
NEWSポストセブン
沖縄県那覇市の「未成年バー」で
《震える手に泳ぐ視線…未成年衝撃画像》ゾンビタバコ、大麻、コカインが蔓延する「未成年バー」の実態とは 少年は「あれはヤバい。吸ったら終わり」と証言
NEWSポストセブン
米ルイジアナ州で12歳の少年がワニに襲われ死亡した事件が起きた(Facebook /ワニの写真はサンプルです)
《米・12歳少年がワニに襲われ死亡》発見時に「ワニが少年を隠そうとしていた」…背景には4児ママによる“悪辣な虐待”「生後3か月に暴行して脳に損傷」「新生児からコカイン反応」
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン
“1日で100人と関係を持つ”動画で物議を醸したイギリス出身の女性インフルエンサー、リリー・フィリップス(インスタグラムより)
《“1日で100人と関係を持つ”で物議》イギリス・金髪ロングの美人インフルエンサー(24)を襲った危険なトラブル 父親は「育て方を間違えたんじゃ…」と後悔
NEWSポストセブン
自宅への家宅捜索が報じられた米倉(時事通信)
米倉涼子“ガサ入れ報道”の背景に「麻薬取締部の長く続く捜査」 社会部記者は「米倉さんはマトリからの調べに誠実に対応している」