「かくれキリシタンは研究者自体が少なく、漁業や農業を生業とし、暦にまで入り込んだ民衆の信仰史は、もっと様々な見地から評価されていい。その生月でも漁獲量の激減で若者が流出し、〈オヤジ役〉と呼ばれる世話役の高齢化も進んでいる。だからこそ記録や調査には公正を期し、信仰は心の中の問題だという原点に立ち返るべきじゃないかと思う」
異物を区別し、線を引きたがるのも人間なら、親子代々、思いを繋ごうとするのも人だった。そんな衒いのない営みを奇跡的に残す島の姿は、果たして信仰とは何かを、読む者に問う。
「どんな無宗教の人もこれだけはしちゃいけないとか、生活上の倫理観に支えられている部分はあると思うし、生月の信仰が人々が生きる上で有効な知恵だったのは間違いない。むしろ私にはマンション墓地とか0円葬といった現実を屈託もなく受け入れる日本人の将来の方が、心配なくらいです」
【プロフィール】ひろの・しんじ/1975年東京生まれ。「本所緑星教会の牧師だった祖父は、東京大空襲で火の海になった両国一帯の消火活動中に亡くなったようです。4歳で父親を亡くし、教会のオルガンを唯一の遊び道具に育った父や母の家系も熱心なプロテスタントでした」。慶應義塾大学法学部卒。神戸新聞記者を経て2002年猪瀬直樹事務所に入所。2015年フリーとなり、昨年末『消された信仰』で第24回小学館ノンフィクション大賞。174cm、82kg、O型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2018年6月15日号