「当たり前に歳をとっていきたいと思っているわけ。アンチエイジングって、したい人はしていい。でも、五十歳の人が顔の皺を引っ張って三十歳に見えたからといって、三十歳の役は来ないんですよ。だって、お客さんは本当の歳を知っているからね。だとしたら、当たり前に歳をとっていけばいい。
でも、そうなると需要がなくなるの。『モリのいる場所』って映画は私と山崎努さんが夫婦で他はそんなに出てこないんだけど、世の中にはそういう映画を作ろうなんてことはほとんどないから。だからみんな歳にブレーキかけたがるんじゃないですかね」
是枝監督の作品には二〇〇八年の『歩いても歩いても』から出演し続けてきた。
「あの時はオーディションだったんですよ。その時『他にどういう人を考えていたんですか』と監督に言わせたらある女優さんの名前を言ったの。『その人は素敵な人かもしれないけど、別の役がいい。この役なら私の方がいいかもしれない』と言ったら監督は半信半疑だったみたい。
あれは子供を亡くした恨みが忘れられない母親の役。その後の『海よりもまだ深く』も子供に期待しているけど裏切られていく。そのことを分かっていても背中にすがりつきたい母親。そういう母親の気持ちっていうのは言ってみれば是枝さんの母親の気持ちでもあるんだけど、そこには普遍性がある。それで息子に期待してしまう母親をやらせてもらったの」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2018年6月22日号