だが〈昨今の人間社会は次第に不在を許容できなくなっている〉。常にスマホを見て呼びかけに応じなくては仲間に拒否される、人間の歴史に逆行するかのような〈閉鎖的な感性〉が育っているというのだ。
「時間の概念がどんどん効率的になっていることも大きい。経済優先の社会では、時間というのはコストに換算されてしまうけど、実は人間同士の関係はコストに換算されない時間に意味がある。そういう時間をいまだに持っているのが老人と子どもです。歯車のひとつとして『何かの役に立つ』という発想じゃなく、高齢者が生産的でない時間を生きているということ自体が重要と考えるべきなんです」
総長に就任して四年目。ほかにも国立大学協会の会長、日本学術会議会長という要職も兼任、ゴリラに会う時間もなかなか取れないと聞くが、東京・丸の内の京都大学東京オフィスで取材した山極氏は、こんがり日焼けしていた。
「アマゾン流域のマナウスに近いフィールド・ステーション(調査・研究拠点)の開所式に先週、行ってきてね。アマゾンカワイルカと遊んでたから焼けちゃった(笑い)」
【プロフィール】やまぎわ・じゅいち/1952年東京都生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学。理学博士、霊長類学者。2014年から京都大学総長。2017年6月から国立大学協会会長、同年10月から日本学術会議会長を兼任する。ゴリラ研究の世界的権威で、座右の銘は「ゴリラのように泰然自若」。著書に『暴力はどこからきたか 人間性の起源を探る』『「サル化」する人間社会』『京大式 おもろい勉強法』など多数。175cm、82kg、A型。
■構成/佐久間文子 ■撮影/三島正
※週刊ポスト2018年6月29日号