片山:ファシズムは、第一次大戦後のイタリアで、ムッソリーニの「国家ファシスト党」の政治運動や思想を示す言葉として登場しました。ファシズムという言葉が持つ本来の意味は「束ねる」ことですね。

佐藤:ムッソリーニは、国家の介入によって国民を統合し、資本主義が生み出す貧困や失業などの社会問題を解決していこうとする政治体制を構築しました。

 戦前の日本が西欧列強に追いつくために、天皇を中心として国民の力を一つに束ねるという考えは一定の説得力を持った。しかし日本型のファシズムは「未完」のまま終わる。まずそこからお話しいただけますか?

片山:日本における未完のファシズムについて考える上でのポイントは二つ。天皇と「持たざる国」ですね。

 幕末、日本は近代化に舵を切りました。すぐに西洋列強に対抗するには、自らを彼らの似姿にするしかない。しかし日本は領土も狭く近代工業化に必要な資源にも乏しい。そこで頼れるのは人の力しかない。倫理と道徳と教育ですね。「持たざる国」である日本は、国民の力を効率的に束ねることで「持てる国」に対抗しようとした。

佐藤:後発の帝国主義国で、かつ「持たざる国」だった日本はそうするしかなかったわけですよね。

片山:そこでの切り札が天皇です。たとえばドイツだと、プロイセンが対外戦争に勝利することを繰り返して、そのプロイセンを核にバラバラだった諸邦と民族を束ねた。でも日本はペリー来航以来、西洋に全く勝利できない。束ねる実力者がいない。そこで長く無力であり続けていたけれど、神話に守られた天皇で束ねようとした。実力で束ねられないなら、神話と復古と伝統で束ねようということ。これは成功しました。でも中心が無力になった。そこに逆らうと痛い目に遭う。

 たとえば昭和の戦争期に近衛文麿は大政翼賛会を作って日本のナチスにしようとした。大政翼賛会総裁はヒトラー並みの実力をもって軍も内閣も議会も抑える。それでこそ「持たざる国」を厳格に最大効率で束ね、「持てる国」に張り合える。近衛なりに正しい。大政翼賛会は非常時独裁の思想の表現です。でもすぐ骨抜きにされた。日本の束ねは天皇だ。しかもそれは無力の束ねだ。天皇の下にヒトラーは要らない。近衛はこの日本的政治原理に押しつぶされ、大政翼賛会は弱い組織に化けてしまいました。

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