釈:落語はそういう弱い人間、ダメな人間をカリカチュアして笑います。でも、決して批判したり、排除したりはしませんね。
貂々:落語の登場人物たちは、自分のことを生きにくいとはとらえていないかもしれませんが、落語を聴く側はそんな彼らのダメさとか失敗を楽しんでしまおうということでは、どこか通じるのかなと思って、ハッとしました。
釈:落語に出てくる人って、消費者じゃなくて生活者なんですよね。これだけ支払ったから、これだけ満足させろと言い、気に入らなかったらクレームを言うというのが、今は賢い消費者だということになっていますでしょう。でも、落語では消費する人もサービスを提供する人も区別なく、お互いにすり合わせて、折り合っていく生活者なんですね。落語に学んで、現代人は消費者体質を見直したほうがいいんじゃないか、とぼくは思います。
貂々:落語自体が優しいんですね。
釈:今、残念なことに、ちょっとしたことでヘイトの波が起こるとか、世界的に排他的な風潮がありますね。今までだったら公言できなかった、自分のどす黒い部分をネットで増幅させて、不特定多数に発信するというような環境もあるでしょう。でも、落語の世界はもっとゆるい。どんなトピックスに対しても、たとえば死さえも揶揄したり、笑いに転化するようなものを持っていますよね。
貂々:だから私は落語に惹かれるし、落語を聴くとホッとするのかもしれませんね。
※女性セブン2018年8月9日号