一方、工藤艦長の英断は戦後米海軍をも驚嘆させている。米海軍は昭和62年(1987年)、機関誌「プロシーディングス」新年号にフォール卿が「武士道(Chivalry)」と題して工藤艦長を讃えた投稿文を7ページにわたって特集したのである。同誌は世界海軍軍人が購読しており国際的な影響力は大きい。
これから4か月後、東芝機械ココム違反事件が発覚し、我が国は国際社会で孤立した。これは対共産圏輸出統制委員会(ココム)が輸出禁止にしていたスクリュー製造用精密機械を、東芝の子会社がソ連へ不正輸出し、ソ連原子力潜水艦の海中における静粛性を飛躍的に向上させた事件である。このような情勢下で米国の対日貿易赤字は拡大しており、米国民は『安保ただ乗り』と批判し全米で日本製品不買運動が起きていた。
このとき日本海軍と交戦した米海軍の提督たちが帝国海軍の後継である海上自衛隊を称賛し、「同盟軍中、最も高いポテンシャルをもつ組織である」(アーレイ・バーク大将)とまで強調したのである。米国内の対日バッシングはこの結果沈静化した。工藤艦長らの遺産が寄与したものと思われる。
●めぐみ りゅうのすけ/1954年生まれ。1978年、防衛大学校管理学専攻コース卒業。1979年、海上自衛隊幹部候補生学校卒、世界一周遠洋航海を経て艦隊勤務。1982年退官。金融機関勤務などを経て、ジャーナリズム活動を開始。『海の武士道 DVD BOOK』(育鵬社)、『敵兵を救助せよ!』(草思社文庫)など著書多数。
※SAPIO2018年7・8月号