国内

認知症に似た「せん妄」の恐怖、不可解な暴言や鬼の形相に

せん妄は入院時やストレスなどで発症(写真/アフロ)

 54才のN記者は、認知症の母(83才)の介護にあたっている。その中で思い出したのは、亡き父が発症し、認知症と類似していた“せん妄”の症状だった。

 * * *
 17年前に、父(故人)が66才でくも膜下出血で倒れたときのこと。救命救急に運ばれ、一命は取り止めたものの、入院中にせん妄を発症。私が娘ということは認識していながら突然、妄想の闇に陥り、不可解な暴言を吐いたのだった。

 双子など、妄想のモチーフになるようなエピソードは思い当たらず、もともと穏やかで声を荒らげたこともない父の豹変ぶりは、少々ショックだった。ただこのときは、主治医から事前説明を受けていたのだ。

「一時的にびっくりするような症状が出ますが、必ず元に戻りますから大丈夫。落ち着いて見守ってくださいね」と。

 そして主治医は回診の後、「では部長、今日は失礼します。明日もよろしくお願いします」と、父に頭を下げてくれた。

「おうっ」と手を振る父はご機嫌。

 妄想の中では、主治医や看護師さんたちは会社の部下だった。白衣を着て診察もしてくれるのに、その矛盾は気にも留めない。脳の病気とはすさまじいものだと、母と顔を見合わせて感心しつつ、夜間にせん妄で暴れるらしい父を押さえる拘束ベルトを、まじまじと見た。

 高齢になると、入院時はもちろん、それ以外の環境でもせん妄を発症しやすく、症状の出方も多様。認知症と似てはいるが、分けて考え、適切な対処や治療が必要だという。これはごく最近、知った。

 今思えば、母にもせん妄が起きていたと思い当たることがいくつもあった。母の人生最大のストレスだった父の葬儀の前夜、20才の乙女に戻り元彼のことを延々と話したこと。不安な独居時代、刑事が私のことを聞き込みに来たと30分おきに電話をかけたこと。私の家に泊まると決まって深夜に、鬼の形相で金を返せとすごんだこと。

 いずれも認知症の延長のようでいて“豹変”といえる変化で数時間後にはケロリと収束。これがせん妄の特徴らしい。

 極めつきは4年前の暑い夏、今のサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に引っ越したとき。環境変化が認知症を悪化させるといわれたが、母はむしろ無表情だった。でも実はこれも低活動性のせん妄らしい。

「ご近所を散歩していたら、三つ編みの女の子が手招きするから、その家に入ったら中年の女性がアカシさんを探していると言うの。それで…」とボソボソ言ったか思うと、突然、部屋の中を歩き始めた。

 引っ越し直後で散歩する暇はなく、話の展開も奇妙。「認知症の悪化かしら?」とも思ったが、片付けに追われてしまった。

 脱水もせん妄の大きな引き金になると知り、あの母の異様な表情を思い出した。母は幸いその後、落ち着いて事なきを得たが、父のときのように事前にわかっていれば、気づけたかもしれない。家族も勉強が必要だ。

 それにしても三つ編み少女とアカシさん、そして17年前の父が“何もかも知っていた”という内容は何だろう。妄想に根拠はないといわれるが、気になってしかたがないのも家族の性だ。

※女性セブン2018年8月23・30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

独走でチームを優勝へと導いた阪神・藤川球児監督(時事通信フォト)
《いきなり名将》阪神・藤川球児監督の原点をたどる ベンチで平然としているのは「喜怒哀楽を出すな」という高知商時代の教えの影響か
週刊ポスト
容疑者のアカウントでは垢抜けていく過程をコンテンツにしていた(TikTokより)
「生徒の間でも“大事件”と騒ぎに…」「メガネで地味な先生」教え子が語った大平なる美容疑者の素顔 《30歳女教師が“パパ活”で700万円詐取》
NEWSポストセブン
ロッテの美馬学投手(38)が今シーズン限りで現役を引退することを発表した(時事通信フォト、写真は2019年の入団会見)
《手術6回のロッテ・美馬学が引退》「素敵な景色を見せてくれた」国民的アニメの主題歌を歌った元ガールズバンド美人妻の想い
NEWSポストセブン
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
NEWSポストセブン
LUNA SEA・真矢
と元モー娘。・石黒彩(Instagramより)
《80歳になる金婚式までがんばってほしい》脳腫瘍公表のLUNA SEA・真矢へ愛妻・元モー娘。石黒彩の願い「妻へのプレゼントにウェディングドレスで銀婚式」
NEWSポストセブン
昨年10月の総裁選で石破首相と一騎打ちとなった高市早苗氏(時事通信フォト)
「高市早苗氏という“最後の切り札”を出すか、小泉進次郎氏で“延命”するか…」フィフィ氏が分析する総裁選の“ウラの争点”【石破茂首相が辞任表明】
NEWSポストセブン
万博で身につけた”天然うるし珠イヤリング“(2025年8月23日、撮影/JMPA)
《“佳子さま売れ”のなぜ?》2990円ニット、5500円イヤリング…プチプラで華やかに見せるファッションリーダーぶり
NEWSポストセブン
次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン
阪神の中野拓夢(時事通信フォト)
《阪神優勝の立役者》選手会長・中野拓夢を献身的に支える“3歳年上のインスタグラマー妻”が貫く「徹底した配慮」
NEWSポストセブン
朝比ライオさん
《マルチ2世家族の壮絶な実態》「母は姉の制服を切り刻み…」「包丁を手に『アンタを殺して私も死ぬ』と」京大合格も就職も母の“アップへの成果報告”に利用された
NEWSポストセブン
ブリトニー・スピアーズ(時事通信フォト)
《ブリトニー・スピアーズの現在》“スケ感がスゴい”レオタード姿を公開…腰をくねらせ胸元をさすって踊る様子に「誰か助けてあげられないか?」とファンが心配 
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン