【仲直り桜吹雪の奇跡かな】

 そして、いじめを受けた凜君を支えたのは、俳句だけではなかった。いじめを受けている凜君に「外へ散歩に行きましょうか」と学校の外へ連れ出してくれたのが、恩師のS先生だった。

「S先生は諭したり、ベタな宥め方ではなく、ただただ、ぼくの話を黙ってうなずきながら聞いてくださった。否定したり、持論をぶつけたりせず、共感してくれました。ぼくは、その時の感情を暴走させず、抑えるきっかけになったと思います」

 その後、ある日のこと、凜君をいじめていた相手と道でばったり会った。凜君は反射的に心の中で身構えた。ところが、相手の様子がいつもと違った。

「あれっ? 殴りかかったり跳び蹴りしてくるには、距離が離れすぎているぞ」

 人をいたぶることが好きそうな意地の悪い顔つきだったのに、その日のそいつは伏し目がちだった。そして、おずおずとゆっくり近づいてきた彼は「今までいじめてごめんなさい」と頭を下げた。

「いじめをするような人たちが改心するというのは、本当に奇跡みたいなことだと思いました。一生人を痛めつけて、それを喜んで生きていくんじゃないかとさえ思っていた。でも、頭を下げたっていうのは、ぼくにとって衝撃的であり、すごく嬉しいことでもありました」

 桜がふぶくそのワンシーンが今でも忘れられないという。

 人との出会いで凜君の心は支えられ、立ち直っていく。

「ある日、近所を散歩していたら、道端に銀杏が落ちていて、その家には大きなイチョウの木が立っていたので、じーっと眺めていました。そうしたら、家の扉が開き、『(凜君著作の)本、読んだよ』とおばさんに声をかけられました。その銀杏を袋に詰めて渡してくださったのが“銀杏のおばさん”との出会いです」

【銀杏の降る一粒に笑顔かな】

 その日から“銀杏のおばさん”との交流が始まる。おばさんは、本を読んだ感想と、励ましの言葉が綴られた手紙を何度も渡してくれた。“こんな身近にぼくの本のファンがいたなんて”! 自分の作品がなんとも誇らしく感じられた瞬間だった。

「手紙は大切に保管しています。ぼくにとって銀杏のおばさんは、存在自体が支えでした。おばさんとのふれあいは温かい思い出です」

 銀杏のおばさんはかつて幼稚園の先生で、生徒の中に吃音に悩む子がいた。返事がうまくできないその子を、周りの子供たちが笑った。それを見たおばさんは、子供たちを強く叱ったという。

 また、その状況を看過していた他の先生も叱った。身体的特徴を、からかいの対象として責める行為は卑怯で低劣。それが許せなかったのだという。

「ぼくは将来、銀杏のおばさんのように、間違ったことをしっかり大きな声で言える大人になりたいです。ぼくがこうしていられるのは、支えてくれた人がいるから。大きな声まであげられなくても、ぼくが今度は同じ立場である人を支える人間になりたい」と凜君は語る。

 俳句によって交流の輪が広がり、俳句とともに凜君は成長していった。

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