2030年の物語の2人目の人物は、歌舞伎町で風俗店「ニューヘブン」を経営する車イスに乗る藤堂竜太郎(60)だ。
ニューヘブンは2027年に、風俗嬢に代わってAIを搭載したダッチワイフ「ラブドール」を導入し、業界で話題となった。現実空間の生身の女性よりも、スマホやPCのサーバー空間の仮想女性に興奮する草食系男子は増え続け、そんな二次元性風俗に歌舞伎町の風俗店も押され、ニューヘブンも例外ではなかった。
そこで藤堂は、性的満足ではなく、話し相手になってくれるAI搭載ラブドールの導入を従業員の反対を押し切って決断した。
ラブドールは、セクシーな身体に美しい顔立ち、吸いつくような肌を持ち、搭載された AI が客の望む会話サービスを提供し、心の満足を与える。声もアニメ声から、しっとりと落ち着いた声など、AIが客の要望に応じて作り出してくれる。ラブドールの導入コストは高いが、融資先に困っていた大手銀行が気前よく引き受けてくれた。
数年前にヤクザに刺されて半身不随となった藤堂が乗る電動車椅子は、バージョンアップを重ね、AI化で行きたい場所を告げると移動する自立走行対応になっていた。
さて、ラブドールを導入したニューヘブンは活況を取り戻していき、来店する酔っぱらい客が、高価なラブドールを壊さないよう、店の入口にはAIカメラを用い、客の様子から泥酔判定をするシステムまで導入。客は入口から店内まですべてAIカメラに見張られている。
ある日の深夜、泥酔した中年客が無理やりニューヘブンに入店し、店内で暴れるという事件が起きた。その中年客は与党の有力政治家の息子だった。数日後、ニューヘブンの本店のPCが外部からハッキングを受け、全てのデータを盗み取られてしまう。ハイテクなAIとローテクの人間の欲が絡み合って物語は意外な方向に展開していく。