残さなければいけないものとは、ネット証券会社の口座や、遺影などの共有すべき写真が代表例です。実際FX取引をしていた人の死後、為替が大幅変動し、約100万円前後の追加証拠金が課せられたといったケースがあるようです」(伊勢田さん)
自分の名誉を守るため、また、遺された家族に迷惑をかけないためには、3つのステップを踏むといい。
「それは、“棚卸し→分類→エンディングノート等への記録”です。棚卸しとは、どこにどんなデータがあるのかを把握すること。パソコンには自分も忘れているような古いデータが入っていることもあるので、注意が必要です。分類は、何を隠し、何を残すかを決めること。絶対に隠す、できれば隠す、絶対に残す、できれば残すといった具合に、レベルごとに分けます」(伊勢田さん)
こうした作業の末、ネット銀行や有料サービスのアカウントなど、絶対に残すものについては、具体的にエンディングノート等に書き出しておく。思い出の写真など、できれば残したいものについては、データのありかを記しておく。
◆死後にわかった妻の不倫
さて、問題は隠したいデータがある場合だ。遺品整理会社に勤める河合祐介さん(仮名)が明かす。
仲のよかった妻を亡くした夫が、妻のパソコンに入っているはずの、旅行先で一緒に撮った写真を手元に置きたいと考えて、思い当たるパスワードを入力し、パソコンを開いた。確かにそこには仲睦まじい写真が何枚もあったが、「シークレット」というフォルダもあった。そしてその中には、見知らぬ男性と微笑む妻の写真が何枚も残されていた。
「夫と旅行をし、よかった場所にだけ、彼氏を連れて行っていて、夫との旅行は下見であったことがわかってしまいました。男性は、妻とは同じお墓に入りたくないと言い、相当怒っていましたね」(河合さん)
連れ添った時間を暗転させるような悲劇を起こさないようにするため、自衛が必要になることもある。
「絶対に隠したいデータは、信頼できる人に、自分が死んだら指定したデータを消してもらうよう頼むなどしておくこと。もし自分で隠したい場合は、フォルダを何層も作ることをおすすめします。例えば、見る人が関心のなさそうな『囲碁』というフォルダを作り、その中にさらにプロ棋士の名前のフォルダを多数作っておく。さらにプロ棋士の名前の各フォルダの中に棋譜のフォルダを複数作っておく。こうして多数のフォルダの階層を作ったうえで、そのうちの1つのフォルダに大切なデータを忍ばせておくのです。そうすれば、興味がなければ囲碁フォルダを開けないでしょうし、大切なデータまで辿り着くことはめったにないでしょう。もっとも夫婦間でそうした秘密を持たずにすむなら、それに越したことはありませんが」(伊勢田さん)