故郷に帰った新兵衛には、もうひとつの愛がからんでくる。篠の妹・里美(黒木華)との関係だ。控えめな里美は新兵衛を慕うが、ストレートに言葉には出さない。一方、新兵衛は篠との約束を果たすため、激しい戦いに挑んでいく。賢い里美は、新兵衛の思いを悟り、涙するのだ。
黒澤明監督のもとで撮影助手として働き、長いキャリアを持つ木村大作監督は、この作品を「ラブロマンスだ」と宣言している。新兵衛、篠、里美、采女、それぞれの思いをセリフでなく、微妙な表情ですくいとるのは、さすがだ。加えて、私はこの作品の奥底には、昨年、急逝した原作者・葉室麟さんの心根の優しさがあると思っている。
インタビューなどでお目にかかった葉室先生は、鋭い人間観察力を持ちながら、他者には優しく、ユーモアもある楽しい方だった。先生が描いた新兵衛もただ思い詰めるばかりではなく、酒を飲み、庭を眺め、ふと場を和ませるようなセンスもある男。岡田准一ならではの「今まで見たこともない」キレのいい殺陣も見どころだが、同時に「今まで見たこともない」純愛侍ぶりにも、ぜひ注目してほしい。