準々決勝で3年ぶりに対戦し、そのハイレベルなプレーの前に屈した林丹の試合直後の言葉も、桃田の成長ぶりと現在の強さを物語る。
「桃田は、3年前の全英で対戦したときとはプレースタイルが変わり、オールラウンドプレイヤーに近くなっている。技術も完全に向上していた。今日の彼は絶好調だったが、ここで戦えたことは自分にとって良かった。良い選手とは常に戦っていないといけないし、彼とは今後も長く戦っていくことになるからだ」
事実上の決勝戦となった準決勝のアクセルセン戦では、194cmの長身から繰り出すアクセルセンの破壊力抜群のスマッシュにリードされる場面がありながら、勝負どころでは桃田の頭脳的かつ丁寧なプレーが冴え渡った。完敗を喫した後、桃田について「彼はスキルフル(技術が巧み)だった」とひと言、絞り出すように言うのが精いっぱいだったところに、アクセルセンが感じた悔しさの大きさが見て取れる。
ともに24歳。世界ランキングではアクセルセンが格上だが、直接対決となると、今回の試合を終えて9勝2敗と桃田がアクセルセンを圧倒している。今後、世界のバドミントン界を牽引し、主要大会での対戦が増えるであろう2人ではあるが、アクセルセンが桃田に苦手意識を持ち始めたとしても不思議ではない。そういう意味でも、桃田が名実ともに「世界ナンバー1」を手にする可能性がさらに高まってくる。
桃田のここまでの進化は、何よりもメンタリティの成長があったからに他ならない。「バドミントンができなかった時期を思うと、練習できることさえもありがたい」と話し、「自分の成長した姿を見てほしい」「応援される選手になりたい」などと発する言葉は、謹慎前の桃田からは決して聞かれないものだった。ジャパンオープンの期間中、北海道地震への被災者支援として行われたチャリティーオークションは、自身も福島・富岡高時代に東日本大震災を経験した桃田の発案だったという。
桃田は優勝を決めた後、「ジャパンオープンは子どものころから憧れていた大会。(8月に優勝した)世界選手権よりも勝ちたいと思っていた」と語り、喜びを素直に表した。そこには派手な風貌と奔放な言動で、良くも悪くも個性的だったかつての姿はない。バドミントンができることや周囲の人々への感謝を口にし、自らを高めたいという一人のストイックなアスリートがいるだけだ。
世界ナンバー1、そして、オリンピックチャンピオンへ──。王者の風格をまとい始めた桃田のさらなる飛躍に注目せずにはいられない。