日本の場合、鹿猟は11月15日から2月15日までの期間限定だという。しかし、北海道と東北の一部は例外的に4月の狩猟も許されている。そういった事情もあり、東野とクルーは北海道の占冠村にある山へと乗り込む。
ロケ車で「寺門ジモンさんが言っていたんですが、熊が出たら横隔膜を意識して声を出せば逃げていくんですって」と陽気に話す東野。入山してからもお気楽なテンションは変わることない。
木々と同化する鹿を見つける眼は持っていないが、人のイジれるポイントを察知するセンサーは芸能界でも随一。バラエティを20年以上サバイブしてきた東野の慧眼は、狩猟ガイドを務める浦田のクセのある話し方をロックオン。だが、山のなかで人をイジるなんて御法度。イジりたいがイジれない、そのジレンマを抱えた東野の表情が良い。
山中、熊の足跡を見つけた一行。怯える東野に「熊=怖いという安易な考えが事故を生む」と怒る服部。浦田も「もし、熊が出てきた時に走って逃げていくのだけはやめてください」と続く。
イジりたい東野は、車中でも話していた寺門ジモン直伝の熊の撃退方法を浦田にレクチャーする。怒りを押し殺した声で「できるものならやって見てください」と微笑む浦田。その顔を見て東野は満足げに「すいません」と謝罪するのだった。
山のパートで映されるのは、一行VS鹿とバラエティタレントVSリアルハンターという2つの構図。元来、クローズアップされるべきは前者に決まっている。しかし、後者も互いの意地をかけた戦いだ。雪山での大人の喧嘩は、これまた違った意味で生々しい。
だが、山のパートも佳境を迎える頃には後者の戦いが消滅。東野の体力が限界に達し、イジる余力もなくなったからだ。手を両足に添え、肩で息をする。体力の限界は見るからに近い。そんななか、突然クライマックスが訪れる。
鹿のフンを発見した服部が急に走り出す、突然止まり猟銃を発砲。銃声に驚く東野、「東野さん早く!」という服部の声が山にこだまする。駆け寄ってみれば、命を失ったばかりの若い鹿が倒れている。
服部から「では血抜きをしてください」と言われた東野は「すいません、すいません、すいません」と唱えつつ、鹿の首の頸動脈をナイフで切る。湯水のごとくドピュドピュと血が流れる。温い鮮血によって、雪が真っ赤に染まっていく。言わずもがな、これも生々しい。
そして、東野は鹿をロープで引きずりながら下山するのだった。
屠殺場で東野は狩った鹿を解体していく。皮を剥ぎ、腹膜を切り開き、内臓を取り出す。正しい工程で精肉作業をすれば、いともたやすく肉となる。一切のモザイクなく、解体されていく鹿にグロテスクさはない。もしくは、狩猟の様子を見ているなか「グロテスクさを感じることが失礼だ」といった気持ちが僕に芽生えたのかもしれない。
最終的に鹿は肉となり、東野の胃袋へと収められる。テレビを羨望の眼差しで見ることは少なくなったが、「東野、鹿を狩る」は同じ体験を望むほどに憧れた。また、この気持ちは多くの人に共感してもらえるものだろう。それほどにグッとくる映像なのだ。
その後、東野は猪、カラスで同様の狩猟を行う。興味深いのは回を増すごとに、東野のリアクションが薄くなっていく点。動物を狩ることに慣れていく様子がこれまた生々しく描かれる。ターゲットと格闘している時、東野は生き生きとしている。バラエティ番組で見かける相手を分析するジトーッと目とは真逆、生の喜びに満ち溢れた輝く瞳を『カリギュラ』では晒している。
東野は「人の心がない」とよく言われるが、それは違う。通常の人よりも心が鈍感なだけ。強い刺激を常時求めているだけなのだ。
当初は芸能界で満足できた部分もあっただろう、しかしいつかは慣れてしまった。刺激を求めて、岡村隆史との旅番組『旅猿 プライベートでごめんなさい…』では海外の放浪にも挑んでいる。芸能界、海外放浪と刺激を求め続けた東野の到達点が “狩猟”なのだと思う。しかし、それはもうテレビサイズではない。そこに現れたのが黒船Amazonプライム・ビデオ、やりたいことを全部できる場所を見つけた東野は輝く。最終的には熊を狩ることが目標だというから驚きだ。
「東野、〇〇を狩る」とシリーズのみについて言及してしまったが、他の企画も面白い『カリギュラ』。民放じゃ刺激が足りない!なんて方にオススメしたい。