「2010年のバリウム検査画像に、ほとんど異常は見られません。しかし、2011年の画像には、胃壁に太いヒダが出ています。ピロリ菌感染による胃炎の典型的な症状で、胃がんの疑いを持つべきでした」
胃がんの診断を受ける2年も前から、画像に疑いは表れていたのだ。だが、その年の検診結果は、次のような通知だった。
《現在のところ、異常はありません》
翌年の検診では、「要精密検査」となり、轟さんは消化器内視鏡専門医のクリニックで検査を受けた。その結果は──。
「胃から採取した組織から、がん細胞は見つかりませんでした。胃の不調はピロリ菌による『慢性胃炎』です」
だが、この時のバリウム検査画像と内視鏡画像についても、大和田医師は──、
「潰瘍があって、胃壁が硬い。“スキルス胃がん”を示唆する二つの要素が確認できます。それに内視鏡検査はしっかり胃の中に空気を入れて、複数の箇所から生検しないと、がん細胞は見つかりませんが、その形跡がありません」
この指摘を受けて、轟さんの内視鏡検査を担当した医師に取材した際の答えが、冒頭の言葉だ。この医師はこうも主張した。
「内視鏡は空気をバンバン入れると、お腹が張って苦しくなります。ですから、患者さんのことを考えると、そこそこ膨らませて、観察できる程度で速やかに、胃カメラがトラウマにならないように切り上げます」