「息子に逮捕状が出ている、しかも詐欺で、と。いや間違いでしょうと何度も聞きましたが、確かに逮捕状には息子の名前が出ていました。慌てて息子を起こしに行くと、息子も何が何だかよくわからないということで、その場で刑事が説明をしてくれたんです。すると息子は、青い顔をして“やった”と…」
刑事によれば、息子は夏休みに入る直前の6月頃に、友人らと共にコンビニのATMから20万円弱を不正に引き出した、ということだった。一日に数件のコンビニを回って、それぞれ異なるキャッシュカードから20万円弱を三回、計60万円近くを引き出していた。そのうち一件について、被害者から被害届が出されており、捜査していたところ息子の関与が判明したのだという。
「息子は“先輩についていっただけ”と話していましたが、どうも筋悪の先輩であるようでした。先輩と言っても、地元中学の仲の良い先輩で、そこまでの悪事を働くような大悪党ではありません。捜査の中で、その先輩がカネに困り、ネットで“簡単なバイト”に応募をしたことで、今回の事件に巻き込まれていたという話も出てきたそうです。息子も先輩の言うことだから、ということでついて行き、言われるがまま、ATMから現金を下ろして先輩に渡したそうです。
息子はこの“バイト”で、一回につき二千円ほど、計六千円を受け取ったそうです。まさかオレオレ詐欺に加担していたとは思っておらず、ひどく動揺していました。親としても息子を怒鳴りつけたい気持ちでしたが、何となく先輩に言われてやったばかりに…。小銭ほしさもあったんでしょうが…」
正直なところ、親としては息子が検挙されるのは納得がいかなかったとも話す渡辺さん。先輩の指示に従って、何もわからないままカネを下ろしただけの息子。息子は多額のカネを受け取ったわけでもない。悪いのは先輩か、その先輩に悪事を指示した黒幕だ。しかし罪は罪。しかも今流行りのオレオレ詐欺の引き出し役なのだ。
息子は高校を退学にはならなかったものの、長期の停学を命じられた。そのまま従えば留年確実であり、周囲の目も気になってやむを得ず転校したのだった。
「息子は自分のしでかした事の重大さに気づき、部屋から出てこなくなりました。自営業だった私も取引先からいろいろと噂され、仕事が減りました。今は家族がバラバラの状態ですが、何とか修復させたい。同時に、息子がなぜあのような事をしたのか、巻き込まれたのかも調べました。他人事のように聞こえるかもしれませんが、とにかく、青少年と犯罪の距離が近すぎる。ネットやSNSでこれらのバイトは簡単に見つかるし、誰でもできる環境があるということです」