中川:この調査の目的って、世界にどれだけバカがあふれているかっていうことを示すということなんですか? 結果的にはそういう読み方をしちゃうところがあると思うんですよ。
橘:ヨーロッパの国はどこも高い失業率が社会問題になっていますが、その一方で、経営者の側から「どれだけ求人を出しても必要な人材が取れない」という声もあって、仕事とスキルのマッチングがどうなっているかを調査したら、こういう結果が出てきてみんな驚愕しているということのようです。
◆問題文を読めなかったらどんな問題も解けるわけがない
中川:一言で言うと、簡単なことができない人がこんなにもいますよという結果なわけですよね。
橘:新井紀子さんの『AI vs 教科書が読めない子どもたち』でも、問題文の意味がわからない子どもが出てきます。教育者は、「できない」というのは、問題文を読んで解き方がわからないのだと思っています。それなら、教え方を工夫して解き方がわかるようすればいいわけですが、新井さんが指摘したのは、問題文そのものが読めなくて答えられない子どもたちが3割もいるということで、それでみんなショックを受けた。でもPIAACの調査結果を見たらこれはショックでも何でもなくて、当たり前の話なんですね。
中川:まだ日本はできている方だということですね。
橘:そうです。日本は世界のなかでいちばんまともな方です。
中川:以前と比べてレベルが下がっているという話ではないのですか?
橘:そうではないでしょう。「教科書が読めない子ども」がそのまま成長して「文章の読めない大人になる」と考えれば、PIAACの結果が見事に説明できますから。以前は文章読解能力や論理・数学能力がなくてもちゃんとお金を稼げたのに、知識社会化が進んだことで、こうした仕事が新興国やAIロボットに代替されて、認知能力の欠如が「問題」として浮上してきたんだと思います。