大正時代からその歴史が始まっている老舗『柳下(やぎした)酒店』だが、角打ちのできる店にしたのは一昨年の6月からで、やっと2年半が過ぎたところだ。
しかし、今や「店は日曜月曜が休み。会社は土日が休み。で、週4日来てるってことは、ひょっとして俺ら、皆勤賞?」などと言って頭をかくサラリーマン客が目立つ人気店になっている。
「それ以前はコンビニにしていたんですけど、店内で飲めるとお客さんは喜んでくれるし、自分としてもアイデアを生かせる自由があって、仕事が楽しくてね。ほんと、角打ちができる店にしたことは大正解でした」(3代目・柳下元秀さん・58歳)
創業当時にレジとして使っていた小さな賽銭箱風の銭箱、伝統の酒屋には欠かせないアイテムの金看板など、昭和の香りをアクセントにした酒棚に囲まれた、明るく清潔な10坪ほどの店内。
そこにあるのは、柳下さんが「楽しい角打ちのために最適な高さ」と直径を考え抜いて専門家に製作を依頼したという、自由に移動可能な6脚の丸テーブルだ。そこをそれぞれ常連客が囲んで、気ままな小宴を繰り広げている。
「本名も連絡先の電話番号もいまだに知らない人たちも多くて。それがこんなに仲良くなれるなんて考えもしませんでしたから大感激です。次はいつ会おうなんて約束しなくても、ここに来るといるんですよね。そんな彼らと過ごす安心感、のんびり感は自宅以上です」(40代、カー用品メーカー)
「ここで角打ちを知ってまだ半年にならないけど、仕事関係以外の仲間がどんどん増えています。居酒屋も好きですけど、楽しい友達の増加率じゃ、絶対にかないませんよ。いつも一緒に来る妻が風邪気味で、今日は僕一人で来ちゃいました。でも、ここだったらいいよって妻の公認をもらってます」(40代、会社員)
ここで、この店のように明るく楽しい柳下さんがあらためて登場する。
「この丸テーブルですけどね。脚には鞄かけもあってなかなかのデザインでしょ。最適な高さと直径と言いましたけど、正確な数字は言えないというか、覚えてないというか。でもここで角打ちをすれば、そのことに納得してくれると思います」
そんな自慢とも照れともとれる言葉を残して店の隅に戻った。