要は、警察の評価システムから生まれた言葉だ。
「自分たちも成績を上げないといけない。1人で余罪をたくさん持ち、それを洗いざらい話してくれたら、それだけで当分の間、楽できたんだ」
以前は手持ちの原票を他の月に割り振って提出できたというが、今は月毎の月末締め。いい泥棒を捕まえて自供させても、前のように楽はできなくなってしまった。
ところが泥棒も捕まったからといって、誰かれ構わず簡単に白状するものではない。特にプロの泥棒ともなれば、白状するにも相手を選ぶ。そこを自供させるのが刑事の力量だ。すっぽん刑事は「事件に対する姿勢と情熱」こそが大事と話す。
「人格と人格がぶつかるところまでいかないと、人は真実を話さない。否認しているホシを担当したら、追い詰めて感情移入して、どうしたらいいか考えてホシを落とす。ホシが自分のことをわかってくれたと思わせないと、自供しても本当の言葉が出てくるかどうかわからない」
捜査を単に仕事と思っているような刑事では、ホシを落とすことはできないという。
いい泥棒の盗みの特徴についても聞いてみた。
「いい泥棒は家の中を荒らしたりしない。ピンポイントでお金のある場所や金目のモノが置いてある場所を探し出して盗んでいく。泥棒によっては、財布から数万だけ盗んでいくこともある。捕まらないことが大事だから、現場はきれいなんだ」
ドラマなどでも描かれる、“プロの泥棒”の手口である。
「いい泥棒は、自分がやった何百件という盗みを全部覚えている。細かなところまでは覚えていなくても、その家がどんなところにあったか、どんな家だったのか、周りにはどんな目印があったか、部屋の特徴はどんなものだったのか…、きっちりと覚えている。だからいい泥棒は、盗みに入った家の簡単な見取り図や家の図面まで描けるんだ」
そこまでの自供があれば、裏を取ってしっかり証拠固めができる。警察にとっては、まさにいい泥棒というわけだ。
だがここ数年、外国人犯罪が増えて、家の中を荒らす悪い泥棒が多くなっているのも事実だ。捜査手法も自供させる戦略も、すっぽん刑事が現役の頃とは変わりつつあるという。
「今の時代、すっぽんなんかに例えられても、若い刑事は誰も嬉しくないのさ」