◆英語は道具と割り切ろう

 たしかにコミュニケーションのツールとして、英語が重要な役割を果たしていることは否定できない。しかし、あくまでもそれは手段であり、道具である。その点では自動車の運転技術やパソコンの操作能力と同じようなものだ。

 自動車の運転をマスターするのに何年もかけていられないのと同じように、英語の学習に10年、15年もかけるのは、考えてみればもったいない話である。しかも、これからいっそう多くの時間をかけさせようというのは、グローバル化、AI化という時代の要請にむしろ逆行しているのではなかろうか。

 英語はコミュニケーションの道具だと割り切れば、その習得にはできるだけ時間とエネルギーを使わないほうがよい。

 そこで注目されるのが、AIを活用した自動翻訳機の登場である。総務省所管の情報通信研究機構(NICT)が開発した「ボイストラ」というスマートフォン用アプリは、日本語や英語のほか、中国語、ドイツ語など14言語の音声翻訳ができる。その能力は短期間で急速に向上し、いまではTOEICで900点以上取る人と同等の実力があるという。

 私も試しにそれを使ってネイティブの英語や中国語を話す人と会話してみたが、かなり高度な会話ができることがわかった。少なくとも私の語学力などをはるかに上回っていることは間違いない。欠点は聞き終わってから訳して話すため、会話にタイムラグが生じることだが、それを克服する同時翻訳ソフトもまもなく販売されようとしている。

 もちろん会話だけではない。ネットに掲載されている英語論文や英語記事などは、日本語に翻訳して読むことができる。もっとも現在はまだ、まともな日本語にはなっていないが、大まかな内容くらいは読み取れる。英語の文章を書くときも、日本語をいったん英訳してから修正すると効率的だ。和文英訳の添削をしてもらっているようなもので、使っているうちに自然と英文を書くのにも慣れてくる。

 いうまでもなくAIの進化は日進月歩である。日常会話は言うに及ばず、仕事でも翻訳機さえあれば不自由しないレベルに達するのは時間の問題である。だとしたら、外国語は思い切ってAIに任せたらどうだろうか。

 国家戦略として、官民一体で翻訳機のさらなる性能と使いやすさの向上に取り組む。一方では、翻訳機を介してコミュニケーションをとる方法を学ばせる。そうすれば日本人は語学の習得という単調で生産性の低い活動から解放される。それによって、やっとグローバル社会で欧米と対等に競争できるようになるはずだ。

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