都内の中堅私大で常勤講師を務める男性は、政府の労働力についての主張と、何年も身の回りで見てきた就職活動に悪戦苦闘する現実の学生たちとの違いに、大きな違和感を覚えている。というのも、農業や漁業、介護に医療といった分野に興味を持つ学生は決して少なくないにも関わらず、いざ就職活動になると、若者はこれらの仕事を選択肢から外す。激務な割には収入も低いことがわかると、興味はなくともそれなりの給与がもらえる業種になんとなく就職。そこからあぶれた若者が、農業漁業、介護職に就業するかといえば、そうでもない。

 今回の入管法改正の閣議決定、そして14業種を「単純労働」と解釈させて否定しなかった政府、役人の姿勢こそが、まさに若者をこれらの業種から遠ざけているし、さらに本当に”人不足”や”労働者不足”といった問題が存在するのか、今こそ再考するべきだと話す。

「今回、指定された14職種は学生にとっても人気がないものばかり。介護にしても農業、漁業にしても、決して単純作業ではなくやりがいも高いはずなのですが、いずれも給料が低く激務の為に、将来性が見えないからです。また、そもそも人出不足は本当か、ということを疑うべきではないでしょうか。就職率は高い水準ですが、みな給与には不満がある。

 学生が就職してもすぐに辞めてフリーターやニートになる場合、ほとんどが”働いても仕方ない”と絶望するから。外国人労働者を受け入れる前に、今回単純労働とされた職種に携わる人々の給与を上げて多くの日本人を呼び込む、といった政策になぜもっと力を入れないのか。現在、日本国内の外国人労働者は現在128万人ですが、完全失業者は162万、ニートは2017時点で71万人とされています。これら約230万の人々が、安心して働ける環境があれば、わざわざ外国から人を連れてくる必要はない。国の基幹産業である農業漁業、そして今後絶対に必要な介護職などの業界で働く人々に関して言えば、国が主導して人を呼び込む必要がある。これは、多額の宣伝費、ロビー活動費を使って外国人人材を呼び込むより、早く、そして安価にできることではないでしょうか?

 それなのに、日本人失業者や若者の雇用対策をおざなりにして、新たに安く使える外国人材を受け入れようとするなんて、場当たり的としか言いようがありません。14業種を“単純労働”と思わせたままにして怒られて、慌てて特定技能は違うと言い出すのは、まさに政権や政治家が、国民をナメている証左。介護も農業も、我が国にとってなくてはならない重要な仕事」

 政府は閣議決定から2週間以上が経ってから、新たに創設される在留資格で受け入れる労働者に単純労働者は対象外との見解を示した。そして「受け入れ外国人」の給与水準を日本人と同等かそれ以上にと、企業側に要請する方針だそうであるが、それならばなおさら、いま国内で暮らす日本人の失業者達が働ける環境を整備した方が建設的ではないのか。

 入管法改正が閣議決定される直前の10月29日。朝日新聞には「外国人労働者を“人”として受け入れるべき」との社説が掲載された。同胞の日本人ですら単純労働の“ロボット扱い”で軽視しているとしか思えない我が国の政治家たち。失業者やニートなどの若者は、すでに切り離されたとも言ってよい。それでも新たな労働力としてやってくる外国人を、同じ人間だとして受け入れるなどという雰囲気が作り出されるというのだろうか。疑問に思うのは筆者だけではないだろう。

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