そんなマイナスの思考や感情を引きずっていたかはわからない。だが、ザギトワ選手は、フリーの直前に足を痛めてしまったらしく、最初のジャンプに失敗する。ショートプログラムからの流れを見ると、まるでこれから起こる物事や行動を悪い方向に想像したことで、パフォーマンスも下がってしまったようにも思えるのだ。もしそうだとしたら、彼女のタイプは「方略的楽観主義」なのかもしれない。
方略的楽観主義とは、堅苦しい用語だが簡単に言えば、過去の高いパフォーマンスと同じ動きができると期待して、ポジティブに考えること。こうした思考や認知をする人は、「自分はできる」「成功する」と楽観的でいることでモチベーションを保ち、高いパフォーマンスを出す。起こるかもしれない失敗や悪い結果は考えない方がいいのだ。
それとは逆なのが、「防衛的悲観主義」である。これは、過去に似たような状況で良い成績が出せていても、様々な失敗を想定してネガティブに考え、これからの行動や場面に対する期待が低くなる。こういうタイプは、どういう場面でどんなミスをしそうか。ミスをしたらどうなるか、そのミスを挽回するにはどうしたらいいのか、そんな不安をモチベーションにして対策を考え、努力することで高いパフォーマンスを出す。
紀平選手も、フリーの演技で最初のジャンプを回転不足で失敗。だが、その後のジャンプを次々と成功させ失敗を取り戻し、見事1位となった。瞬時に判断し、演技を修正していく能力の高さが評価されたが、帰国後のインタビューでは、ミスをした時にどう取り返すかを考え、準備していたと応えた。防衛的悲観主義の思考を用いて、試合に臨んでいたのかもしれない。
これだけのエピソードで彼女たちのパフォーマンスや思考を決めつけることはできないが、楽観的か悲観的か、それによってモチベーションも結果も変わってくることは想像できる。
演技が安定してきた理由を、「試合への気持ちのコントロールがついた」と話していた紀平選手。どちらか一方ではなく、2つのタイプの思考をうまく使って、さらに華麗な演技を見せてもらいたい。