例えば、ワールドウェルスレポートによると、自宅や車などを含まない投資可能資産を1億1000万円以上保有する富裕層は、現在日本に316万人もおり、前年比で9.4%も増えている。ただ、彼らの存在が国民に認知されにくいのは、富裕層が自らの情報を開示しないからだ。自分の金儲けの手段や所得や保有資産を明らかにしたら、世間から袋叩きにあうので、彼らは情報を隠そうとするのだ。
そうしたなかで、本書は、富裕層の金儲けの手段や資産運用、そして節税のやり方にいたるまで、詳細に記述したノンフィクションだ。しかも、登場する会社や人物がすべて実名なのだ。これは、相当取材に自信がないとできないことだ。金持ちの周囲は優秀な弁護士が取り巻いているので、すぐに訴えられてしまうからだ。
相続税を回避するため、灼熱のシンガポールに移住し、ひたすら時が過ぎるのを待つ富裕層の姿を知ると、お金をたくさん持つことが、本当に幸福なのかと考えてしまう。本書は、最近文庫化され、本体で描かれた物語の後日談も収録されている。平成史を語るうえで欠くことのできない名著だ。
※週刊ポスト2019年1月1・4日号