昨年12月、なんばグランド花月にて
「それまで落語を聞いたことさえなかったのに、桂枝雀師匠の『高津の富』に衝撃を受けたんです。なんでこんなに面白いんや!って。そこからDVDやCDを片っ端からレンタルして、時間があれば聞いていました」
気付けば、iPodに2000席の落語が入っていた。自分でも演じたくなった方正は我流で噺をさらった。半年後、知人を介して師匠となる月亭八方主催の落語会への出演を許される。
「当日まで受験生みたいに必死で練習して、逃げ出したいくらい緊張したけど、お客さんが温かく迎えてくれました。最後のサゲが決まりワーッと拍手をもらった瞬間、すべてがキラッキラに輝いて見えたんです。全身の細胞が喜んでいるのがわかった。師匠には『最後までできたな』と声をかけていただいて。初めてにしてはよくやったという意味ですが、心の中では号泣でした」
方正はその日の打ち上げで「月亭をください」と八方に直談判する。ほとんど面識がなく、一度も稽古をつけてもらっていないにもかかわらずだ。
「酔った勢いもありましたが、思ったら行動せずにいられない性格。怒られるのを覚悟の上でお願いしたら、師匠はその場で『ええよ』と。『八方の“方”をとって“月亭方正”でどうや』と言ってくださった。忘れられたらあかんと思った僕は、紙のランチョンマットに一筆書いてもらいました(笑い)。師匠に新しい命をいただいたんです」