皇統が持続しても日本が「日本でない国」になれば意味をなさない 代表撮影

 江藤淳がもし健在であれば、言下に日本は「ますます滅び」つつあると断ずるであろう。なぜなら、江藤淳がその後半生を賭して探究した「戦後史」の呪縛から日本人は七十有余年も経ても、少しも脱却できていない、いやむしろ自ら進んでアメリカという超大国への幻想的依存を深めることで、真に自立した国家としての道を歩むことを放棄する、自己欺瞞に陥ってきたからである。

◆萎縮する「日本の言語空間」

 江藤淳は昭和五十三年を起点に米国の占領政策の実態を一次資料から改めてさぐり、戦後の日本人が「閉された言語空間」に置かれてきたことをあきらかにした。GHQによる検閲や戦後憲法の制定のプロセスなどの歴史的な検証がその仕事の中心となっていたが、重要なのはそれは決して過去の歴史研究ではなく、今ここに現前している日本と日本人の「自由」と「生存」の根本的な問題として在り続けていることだ。

『閉された言語空間』(平成元年)で江藤淳は占領下における米国の検閲が「眼に見えない戦争」すなわち日本の「文化」と「思想」にたいする殲滅戦であり、占領が終了した後も現在に至るまで、日本人がこの戦後「体制」を改めようとせずにきた事実を鋭く指摘した。

 なぜ、改めようとしないのか。それはこの「体制」によって「利得の構造」を保持してきた政治・教育・文化の“戦後利得者”たちが、今日に至るまでマスコミ、ジャーナリズムの主流を占めてきたからである。

 この構造は保守派であろうが左翼リベラルであろうが、体制側であろうが反体制側であろうが同じである。冷戦構造が崩壊して三十年を経てもそれは全く変わっていない。いや、むしろ江藤淳が当時厳しく糾弾した「日本を日本ではない国」にすることで利益をむさぼっている“利得者”たちは、グローバリズムと新自由主義政策の拡大のなかで、新たな「階級」として白蟻のように増殖し、日本社会のその骨格を蝕んでいる。

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